本研究では、海洋表層微生物に由来する大気有機エアロゾルの生成機構解明に向けて、海洋大気エアロゾルに含まれるペプチドを主とする含アミノ酸有機物の検出を目的とした。 平成25年度に行った分析手法の検討結果を踏まえ、平成26年度はN-(t-butyldimethylsilyl)-N-メチルトリフルオロアセトアミド (MTBSTFA) によるアミノ酸有機化合物のシリル化(誘導体化)及びGC-MSを用いた遊離態及び結合態アミノ酸濃度の定量手法を確立し、分析精度を高めた。この際、アミノ酸成分の検出感度とクロマトグラムでの分離度、回収率・検出の再現性、ブランク値の検討から最適な分析条件を決定した。この分析手法を海洋大気エアロゾル試料(亜寒帯西部北太平洋、亜熱帯東部太平洋で取得)に適用したところ、遊離態及び結合態として存在する各々16種のアミノ酸の濃度定量に成功した。 大気エアロゾル中のアミノ酸への海洋微生物の寄与を調べるために、上述の海洋大気試料を用いてエアロゾルの起源情報を含む安定炭素同位体比(δ13C)を測定した。ここでは試料を塩酸処理・乾燥後、有機炭素を純水抽出・濃縮し、元素分析/安定炭素同位体質量分析計を用いて水溶性有機炭素(WSOC)のδ13Cを測定した。海洋大気エアロゾルにおけるWSOCのδ13Cが-22‰から-18‰の範囲(海洋表層水起源)を示すエアロゾル試料において、グリシンが支配的なアミノ酸であることが明らかになった。さらに、ペプチドを含む結合態アミノ酸の質量濃度は遊離態アミノ酸の質量濃度より約4-5倍高いことなどが明らかになった。本研究で行ったエアロゾル中のアミノ酸の検出・化学特性の理解を通し、今後は海洋微生物が駆動する海洋大気有機エアロゾルの動態解明に繋がることが期待される。
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