研究実績の概要 |
本研究では、安定同位体である質量数15の窒素でラベルしたデオキシアデノシン(15N-dA)を用いて、水圏環境中の自然細菌群集に取り込ませ、その取り込み量を測定することで細菌生産を見積もることを目的とした。 2014年度は、既存の細菌生産測定法である放射性同位体を用いた、DNA合成速度を見積もるチミジン法(3H-TdR)及び、タンパク質合成速度を見積もるロイシン法(3H-Leu)との比較を、相模湾沿岸域の海水を用いて実施した。実験は、採取した海水に、15N-dA、3H-TdR、3H-Leuをそれぞれ最終濃度50 nMになるように添加し、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃に設定したインキュベータ内において数時間培養を行った。その結果、15N-dAは0.62-1.8 × 102 pmol L-1 h-1、3H-TdRは0.31 ~ 3.2 × 102 pmol L-1 h-1、3H-Leuは4.2-8.4 × 102 pmol L-1 h-1の取り込み速度を示した。また、15N-dAと3H-TdRまたは3H-Leuの取り込み速度は、それぞれ有意な正の相関を示し([15N-dA] = 0.55 × [3H-TdR]-4.1; n = 20, r = 0.99, p < 0.001、[15N-dA] = 0.051 × [3H-Leu]-0.35; n = 18, r = 0.99, p < 0.001)、15N-dA法において、既存の放射性同位体で測定されるDNA合成速度(3H-TdR)及びタンパク質合成速度(3H-Leu)を正確に見積もることが可能であることが示唆された。15N-dA法は、3H-TdR法と同じくDNA合成速度を見積もる方法であるが、それらの取り込み速度の線形回帰の傾きは1を下回った(0.55)。生物学的な原因として、細菌の細胞外ヌクレオシドを原料としてDNA合成を行う能力の有無などが考えられ、方法論的な原因として、3H-TdR法における放射性同位体の非特異的標識などによる取り込み速度の過大評価などが考えられる。 結果として、海水サンプルに対しては、放射性同位体を全く使用しない細菌生産速度測定法が開発されたと言える。現在、当該測定法に係る論文投稿・審査中である。
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