【研究概要】 昨年度に引き続き、本研究を通じて開発した自動水蒸気同位体計測システムを砕氷艦「しらせ」に搭載し、豪州-昭和基地間の航路上にて水蒸気同位体比を2015年12月~2016年3月まで連続観測を行った。また、第55次、および第56次南極地域観測隊(夏隊)の観測から得られた豪州ー昭和基地間の水蒸気同位体データを使って、南太洋上における表層水蒸気の起源解析を行った。現在、国際誌に投稿する論文を準備している。 【水蒸気起源解析】 2011年の夏に、グリーンランドにおいて中緯度から輸送された暖気移流が大規模な氷床融解を引き起こしたことが報告され、同様な事例が南極でも起こりえるかどうか注目されている。そこで、中緯度から極域への水蒸気輸送過程を調べるため、豪州-昭和基地間における洋上大気の水蒸気起源解析を行った。まず、水の起源や輸送過程の履歴を反映する安定同位体トレーサーの分布特徴から、南太洋上の大気は以下の3地域でその起源が大きく異なることを明らかにした:(1)海水温度5度以上の比較的温暖な地域、(2)海水温度が5度未満の海洋域、(3)海氷に覆われた地域。海水温度が5度を超える地域では、洋上蒸発モデルを使って観測値を再現することが可能であり、洋上からの蒸発水が主な起源(海洋性気団)であった。しかしながら、海水温度が5度未満の地域では、数値モデル結果よりも顕著に低い同位体比で特徴づけられており、氷床気団の影響を強く受けていた。海氷域では、どの海洋域よりも顕著に低い同位体比を示しており、海洋性気団の影響が予想よりも小さいことが明らかとなった。総観規模擾乱の通過に伴って強い北風移流が卓越した事例においは海洋性気団の影響が検出できたが、どの事例でも同位体組成は南極周辺域から蒸発した水蒸気の組成とよく一致しており、中緯度からの水蒸気移流を示す痕跡は見られなかった。
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