研究課題/領域番号 |
25550038
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研究機関 | 公益財団法人放射線影響研究所 |
研究代表者 |
野田 朝男 公益財団法人放射線影響研究所, 遺伝学部, 副部長 (40294227)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放射線損傷 / ストレス応答 / DSB / unrepairable damages |
研究実績の概要 |
本研究は、放射線被ばくにより生じるゲノム損傷(DNA double strand breaks:DSB)のうち、いつまで経っても修復されない傷の特徴付けを行う事を目的としている。昨年度に引き続き、網羅的な遺伝子発現の解析からの特徴付けアプローチと、修復不能な損傷を被った被ばく細胞に特異的に反応するモノクローナル抗体作製というアプローチを試みた。(1)10 Gy照射後1ヶ月培養したヒト正常線維芽細胞を用いた解析ではこれら、修復不能なDSBを保有した細胞に特徴的な遺伝子発現を示すmRNAをtranscriptome解析にて多数同定し、さらには網羅的な蛋白質解析(proteome)により5-6個の特徴的な蛋白質を単離した。これらについて、核タンパク質である可能性でさらに候補遺伝子を絞り込み、本年度はATMによりリン酸化される潜在部位をもつ蛋白質を探索した結果、これまでに放射線損傷応答研究では全く考慮されてこなかったものを3種類発見した。ひとつはクロマチンに含まれる転写因子であり、残りの二つは核膜孔蛋白質であった。(2)これら推定上の放射線応答性、ATM 標的蛋白質についてそれらのリン酸化部位特異的なウサギ抗体を作製した。その結果2種の新規蛋白質については放射線誘導性のDSBに集積することが分かった。これらはATMによりリン酸化され、DSBに結合する新規蛋白質であると思われる。(3)10 Gy照射後1ヶ月培養したヒト正常線維芽細胞由来の核抽出液を抗原としたマウスモノクローナル抗体作製については、本年度中に合計10回のハイブリドーマ作製実験を行い、これまでに約1万種以上のハイブリドーマクローンをスクリーニングした。結果として、細胞核と反応する抗体は多数得られたが、修復されないDSBを持った核のみを特異的に染める抗体は未だ得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射線被ばくにより生じるゲノム損傷のうち、いつまでも修復されずに細胞に留まるDSB損傷を特異的に検出したい、と言うのが本研究の目的であり、研究計画として3つのアプローチを提案してきた。平成26年度は遺伝子及び蛋白質の網羅的発現解析を効果的に行い、修復不能なDSBを持った細胞で特異的に発現する遺伝子候補を絞り込むことができた。これらの候補遺伝子中から、放射線被ばくの生体影響を説明しうる候補遺伝子が新たに発見できたかも知れない。 マウスハイブリドーマライブラリー作製は順調であったが、本年度のスクリーニングでは候補となるモノクローナル抗体は得られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1.遺伝子の網羅的発現解析により得られた候補遺伝子について、それらの放射線被ばく細胞での機能解析を行う。DSB集積性で、ATMタンパク質の標的となる新規因子を発見することができたとすると今回の研究は概ね成功したと言えると考えている。平成27年度は本研究の最終年度であるので、これら候補遺伝子(蛋白質)が実際に放射線被ばく応答性であり損傷修復に関わっているかどうかの検証実験を行う。これまで修復不能なDSBを抱えた細胞は核膜構造に変化をきたし、最終的に早期老化形質を示すという観察をしてきた。この観察内容を論文として投稿中である。一方で、今回同定された蛋白質の一つが核膜結合性であった事実は、我々のこれまでの観察と合致する結論に結びつく可能性が出てきたので、この遺伝子機能を強力に推進する。 2.もう一つの候補遺伝子は転写因子活性を持つクロマチン蛋白質である。この蛋白質がDSBに集積するという事実もこれまでに報告のない新しい発見につながると期待している。平成27年度はこの遺伝子の機能解析にも集中する。たとえば、ガンマH2AXや53BP1蛋白質とDSB部位で会合しているか否かを検討する。 3.これら蛋白質遺伝子のノックダウン、あるいはノックアウト細胞を作製する。 4.大規模なマウスハイブリドーマライブラリーを作製し、修復不能な傷を持つ細胞のみと反応するモノクローナル抗体の取得を目指す。この作業は大変な労力を要するので、スクリーニングの自動化方法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費(研究消耗品)として5,839円の残りが生じたが、この金額で購入できる抗体等の試薬が現時点では無かった。そこで平成27年度購入予定の試薬費の一部として使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
免疫沈降用のProtein G結合ビーズ(ベリタス社 Dyna beads protein G, 定価27,000円)の購入費の一部として使用する予定である。
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