研究実績の概要 |
今年度は,ビスフェノールA(BisA)暴露による線虫ヒストンH3の修飾状況変化を特異的抗体によるウエスタンブロッティングによる定量的な測定を行った.0, 0.01, 0.1, 1 mM BisAに線虫を暴露し,世代ごとの産卵状況を確認しながら,3世代目まで継代培養した.各世代において成虫体内の受精卵を収集した.それら受精卵中のコアヒストンタンパク質を精製,回収し,粗コアヒストン画分を得た.一定量の各粗コアヒストン画分をSDS-PAGEで分離した後,タンパク質を膜にウエスタンブロットした.ヒストン H3およびそのLys4-モノ,ジ,トリメチル,Lys9-モノ,ジ,トリメチル,アセチル修飾状況をそれぞれに特異的なモノクローナル抗体を用いて検出した.未修飾ヒストンH3は,大量に存在し,BisA暴露で大きな量の変動は見られなかった.Lys4のメチル化修飾状況において,モノメチルは変化がなかったのに対し,ジメチルはBisA暴露によって用量依存的,経世代的に低下する傾向が見られた.Lys9の修飾状況においてはメチル化修飾の大きな変化は観察されなかったが,アセチル化修飾が0.01 mM BisA暴露の1世代目から大きく減少した.いずれのLysにおいてもトリメチル修飾は極めて少なかった.線虫の産卵数は,1 mM BisA暴露では1世代目から激減した.また,0.1 mMBisAでは,2世代目から産卵数が大幅に減少した.これらのことから,線虫受精卵中のヒストンH3は,親世代のBisA暴露で修飾状態が変化することを明らかにすることができた.特にヒストンH3のLys4のジメチルおよびLys9のアセチル化修飾はBisA暴露により,大きく変化したことから,内分泌かく乱物質はエピジェネティックな発現調節にも関わる可能性が強く示唆された.
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