本研究では,森林の精密な空間放射線量分布(マップ)を把握することを目指し,野生動物を使った新たな計測手法を開発することを目指した。具体的には,GPS,放射線量計,高度計測用気圧センサ,データログ機能を搭載した小型計測器を野生動物に装着し,数週間にわたって記録したデータを回収することで,目的とする放射線量分布を得る手法ならびに必要な装置を開発する。福島県では,比較的放射能汚染度の高い南相馬地区の森林に野生サルのコロニーが存在し,約1000頭あまりのサルの生息が確認されている。またサルの行動範囲は一定の領域に限られており,装置を回収することを想定すると適した動物である。したがって本研究では,この野生のサルを利用した計測手法の確立を目指した。サルは地面から離れて生活するため,地上高一定での線量換算を行うためには,サルが実際にどの程度地上から離れているかを計測する必要がある。研究代表者はこれまで,気圧センサを用いた人間行動計測システムの開発で実績を上げており,当初この手法を活用することを考えていた。しかし,そのためにはまず正確な地上高度地図が必要であり,また,常に変動する気象現象である気圧を補正するための正確なリファレンスを得ることが困難であるとの結論に達し,撮像素子を用いて地上高を補正することを試みた。しかし,装置のサルへの取り付け箇所が首に限られ,正確に撮像措置の方向を制御することが困難で,この手法も断念せざるを得なかった。その他,いくつかの手法の検討を行ったが,結局,小型の高度補正技術の確立に失敗した。しかしながら,高度補正を除く,GPS,放射線量計,データログ機能を有する小型装置は完成しており,地上を移動する動物(例えばイノシシ等)などへの装着は可能であり,今後,対象動物を変更した新たなシナリオに基づく研究につなげることができると考えられる。
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