研究課題/領域番号 |
25550056
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
辻 正治 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (30038608)
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研究分担者 |
辻 剛志 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (50284568)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 大気汚染防止・浄化 / 環境技術 / エキシマーランプ / 真空紫外光 / 窒素酸化物 / Pd系触媒 |
研究概要 |
当初の研究計画に従い大気圧空気中で作動するエキシマーランプ照射による高効率大気環境浄化実用装置を試作した。装置は光分解石英反応セルを中心にガス導入・制御系、オゾンフィルター、ガス分析用のフーリエ変換赤外分光光度計から構成した。装置の試作後に除害対策が遅れているN2Oを対象とした分解処理実験を主として実施した。排ガス中に含まれる高濃度のO2はこの波長でN2Oの10倍の吸収係数を有するので、まずO2の光分解反応でO(1D)原子が発生し、その後O(1D)とN2Oとの反応でN2Oが分解すると推定される。 O(1D) + N2O → N2 + O2 (1a) → 2NO (1b) 172 nm照射下では反応(1b)で発生するNOもO(1D)/NO反応や直接光照射で分解可能と思われる。波長172 nmではO2の吸収係数が高いので有害なO3が高濃度で発生することが問題である。本年度は172 nmランプ以外に2011年にウシオ電気が試験的に開発した190 nm新型エキシマーランプを用いた実験も実施した。190 nmではO2の吸収が172 nmと比較して1/1000に減少するため、光分解でのみN2Oは分解すると考えられ、その際オゾン濃度も1/1000以下に抑制可能となる。上記のような172, 190 nm ランプによるN2Oの光分解実験をN2O濃度、O2濃度、ランプ照射時間を変えて実施し、N2O残留率と各分解生成物の生成率を求め、最適分解条件を決定した。また既知の光吸収係数と化学反応速度定数を用いて実験データのモデル解析を行い、反応機構の詳細を明らかにした。さらに本研究において環境浄化触媒存在下では大気環境汚染物質の分解がどの程度促進可能かを調べるためにPd系、Rh系触媒微粒子の合成を検討し、多くの基礎的成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の背景と目的は以下の通りである。東アジアにおいてNOx, SOx, PM の発生による大気環境汚染問題は、解決すべき喫緊の課題となっている。大気汚染物質の処理技術としては触媒、燃焼、吸着法などがあり、既に一部は工業化されている。しかし、これらの 従来の技術はコストの高い貴金属触媒を使用するために、経済力が乏しいアジアの発展途上国の発電所では環境汚染物質の処理装置が装備されていないのが実情であり、これらの国々でも容易に使用可能な廉価で高効率の処理技術の開発が切望されている。 本研究では真空紫外エキシマーランプを大気環境浄化用光源として使用して、NOx, SOx, VOC, PMなどの大気環境汚染物質を大気圧空気中で連続的に高効率分解処理が可能なフロー装置を開発することを目的としている。本申請研究が成功すれば、新興国でも使用可能な、高価な触媒を一切使用しない廉価な新規大気環境浄化装置として早急な実用化が期待できる。 本年度は当初の計画に従いNOx分解の中で温暖化係数が高いにも関わらず適当な分解触媒がなく最も研究が遅れているN2Oのエキシマーランプによる分解を試みた。実験には172 nmランプ以外に2011年にウシオ電気が試験的に開発した190 nm新型エキシマーランプを用いた実験も実施した。それにより当初の目的通りに真空紫外光によるN2Oの分解に関する基礎的知見を得た。よって本研究は初年度終了時点ではおおむね予定通り順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は大気環境汚染ガスの分解処理実験をVOC(ベンゼンやアルデヒド類等の揮発性有機化合物), NO2, SO2 について実施したい。本研究条件下では入射光は99%以上酸素により吸収されるので直接的な光分解は無視でき、O(3P), O(1D), O3のような活性酸素種が分解に寄与する。このうちO(1D)の寄与は窒素・酸素分子との衝突による一重項酸素原子の衝突緩和を低減させるような低圧条件下で実験し、知見を得る。またオゾンの寄与はO2の光照射で生成させたO3を反応容器中に導入して決定する。これらの研究から、どの活性種が分解反応に寄与しているかを解明する。 まずVOC(ベンゼンやアルデヒド類), NO2, SO2の分解実験を試料濃度、O2濃度、ガス流速、ランプ照射時間を変化させて実施し、ベンゼン残留率と各分解生成物の生成率を求め、これらの大気汚染ガスの最適分解条件を決定する。また既知の光吸収係数と化学反応速度定数を用いて実験データのモデル解析を行い反応機構の詳細を解明すると共に高効率な分解を実現するための最適実験条件を決定する。上記の実験と並行してPMの分解・除去実験を行う。反応セル中に主としてアモルファス炭素からなる微粒子をトラップするための多孔質フィルターを設置する。この多孔質フィルターにエキシマーランプを照射することで低温光プラズマ燃焼反応によりPMを燃焼除去したい。 また本研究において環境浄化触媒存在下では大気環境汚染物質の分解がどの程度促進可能かを検討するためにPd系、Rh系触媒微粒子の新規合成技術の開発も並行して進める計画である。 最後に2年間で得られた結果をコロナ放電等の他の低温プラズマ法の結果と比較することにより、本研究で開発を目指す真空紫外光プロセスの利点と試作装置の実用化に向けた改善点を総括したい。またできれば電力会社や自動車会社などと実用化に向けた共同研究を速やかに開始し、研究成果を社会に還元したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
配分予算の16%に相当する約31万円は次年度使用額として残した。理由は現在実施している172 nm エキシマーランプによるVOCの分解予備実験をもう少し進めてみないと、今後どのような物品を購入すべきか判断できなかったためである。 現在予備実験を完了し、次年度使用額31万の物品、旅費、人件費・謝金、その他としての使用計画の目処がたった。それに基づき有効使用する計画である。
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