研究課題/領域番号 |
25550071
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
永長 久寛 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (90356593)
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研究分担者 |
伊藤 正人 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (20293037)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 触媒酸化反応 / 活性低下の抑制 / 反応選択性 |
研究概要 |
本研究は、オゾンを酸化剤とした低温酸化触媒プロセスを利用して使用済みのポリエチレンテレフタラート(PET)などのプラスチック廃材を酸化分解し、再資源化する技術の確立を目的とする。第四周期の遷移金属(Fe、 Co、 Ni、 Cu)の酸化物を基材とした触媒材料を開発し、これらとオゾンの接触により触媒表面上に生成する活性酸素種の反応性を制御し、PETのC-C基を保持しつつフェニル基を選択的にカルボキシル基などに酸化する反応プロセスを開発する。 ポリエステルの分解反応による化学製品の製造プロセスには、芳香族炭化水素を高選択的に酸化分解する触媒材料の開発が重要である。本年度はまずポリエステルの官能基への反応性について明らかにするため、芳香族炭化水素(ベンゼン)、脂肪族炭化水素(シクロヘキサン)を反応物質とし、AgおよびFe、Co、Ni、Cuの酸化物を触媒としたオゾン酸化反応を固-気相系にて行い、各触媒の特性を比較検討した。70oCにおける各触媒上での、オゾンによるシクロヘキサンの分解反応おいて、いずれの触媒も反応初期にはベンゼン、シクロヘキサン酸化活性を示すが、時間の経過とともに低下し、Mn酸化物が最も高い活性を示すこと、Co酸化物は定常活性を示すもののMn酸化物に比べて転化率が著しく低いこと、他の3種の金属種ではほとんど定常活性を示さないことが分かった。なお、いずれの触媒を用いても気相生成物としてCO2、 COが観測された。 Mn酸化物では、中間生成物の蓄積量が他の金属種に比べて多いにもかかわらず他の金属種よりも活性金属種1個当たりの反応速度がはるかに高い。一方、Fe、Co、Ni、Cuでは比較的少量の炭素析出により反応が著しく抑制されることがわかった。FTIRによりこれら炭素析出者の追跡を行ったところ、室温条件においてもMn酸化物上でシクロヘキサンの開裂と酸素付加が速やかに進行することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、オゾンを酸化剤とした触媒酸化反応を利用し、ポリエステルが有する官能基を選択的に酸化分解して再資源化するプロセスを開発することにある。この研究の遂行には、活性成分となる金属、金属酸化物を適宜変えることにより、触媒表面上でオゾン分解反応により生成する活性酸素種の種類、反応性を制御することが必要である。オゾン触媒酸化反応に用いられる触媒材料として、第四周期の遷移金属(Fe、 Co、 Ni、 Cu)を活性成分とした担持金属酸化物が有効であり、本研究ではこれらをオゾンに対して不活性なシリカ(SiO2)担体に担持した触媒材料を調製し、芳香族炭化水素(ベンゼン)、脂肪族炭化水素(シクロヘキサン)を基質とした際のオゾン触媒酸化反応過程について精査した。 ベンゼン、シクロヘキサンの酸化分解過程について反応経時変化やFTIRなどの分光法、および触媒活性試験後の昇温酸化プロファイルから詳細に検討し、各種金属酸化物の触媒特性と触媒表面上に生成する反応中間生成物の量との関係について明らかにした。特に、Mn酸化物はいずれの基質に対しても高い完全酸化活性を示すのに対し、Co酸化物はベンゼンに高い活性を示すものの、シクロヘキサンに対する酸化活性が低いことがわかった。この結果は、活性成分である金属種を変えることで芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素の酸化反応に対して選択性的な反応を進行させることができることを示している。 以上のように、オゾン触媒酸化法がポリエステルの選択酸化分解に適用可能であることが考えられ、当初の研究目的をおおむね達成していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
ポリエステルの分解反応による化学製品の製造プロセスには、芳香族炭化水素を高選択的に酸化分解する触媒材料の開発が重要である。今後はポリエステルのモデル化合物として安息香酸エステル、テレフタル酸エステルや2、6-ナフタレンジカルボン酸エステルを反応物質とし、遷移金属酸化物を触媒としたオゾン酸化反応を固-液相系にて行い、各触媒の特性を比較検討する。最も高い選択性を示した活性成分を基材として触媒材料の改質を行う。遷移金属酸化物を、固体高分子との接触性の良い非多孔質担体(TiO2、ZrO2、CeO2)に高分散担持し、同様にオゾン酸化分解反応を行う。触媒活性成分の担持量を変えた際の構造変化をXRD、EXAFS、Raman、H2-TPR(昇温還元プロファイル)により検討し、構造とその触媒特性(活性・選択性)との相関性を明らかにする。 最も良好な選択性を示した触媒、反応条件において、拡散反射in-situ FTIR分光法によりPETの分解過程を追跡する。PETの官能基と触媒との相互作用について情報が得られるとともに、カルボキシル基の強いC=O基の伸縮振動によるピーク強度変化を追跡することにより酸化分解過程を明らかにする。 以上の研究を遂行することにより、各種触媒材料の芳香族炭素、脂肪族炭素に対するオゾン酸化特性を明らかにし、ポリエステルの酸化分解に有効な触媒材料、反応機構について知見を得ることができる。これらの成果を基に、新規なPETリサイクル方法を構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、オゾンを酸化剤としたポリエステルの選択的触媒酸化反応の研究を行い、最適な触媒構造、成分を確立するとともに、ポリエステルの分解過程についてFTIRなどの分光法により明らかにする。当該年度では、基質を芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素として固-気相系において触媒活性試験を行い、その反応性について明らかにした。次年度では、これらの結果に基づいてポリエステルのモデル化合物として液相系での触媒反応試験を行う予定であり、そのための研究資金として次年度に充てることとした。 本年度はポリエステルの官能基への反応性について明らかにするため、芳香族炭化水素(ベンゼン)、脂肪族炭化水素(シクロヘキサン)を反応物質とし、Fe、Co、Ni、Cuの酸化物を触媒としたオゾン酸化反応を固-気相系にて行い、各触媒の特性を比較検討した。次年度は上記の反応において最も良好な部分酸化活性と生成物選択性を示した金属、金属酸化物を触媒として、PETのオゾン酸化分解反応を行い、触媒酸化特性を精査する。具体的な方法としてPET(ポリエチレンテレフタラート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)を触媒粉末と混練した後、液相系において活性試験を行い、触媒の反応性、完全酸化(CO2生成)特性を検討する。
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