研究実績の概要 |
金や白金族金属は電子部品や自動車用排ガス触媒をはじめ、多くの分野で使用されている。しかし、これらのニーズの高まりと稀少性から、価格は急騰し、その安定確保が大きな課題となっている。そこで本研究では、従来型の“イオン”を“イオン”として回収するのではなく、貴金属イオンを含む廃液や浸出液から「貴金属イオン」のみを「固体ナノ粒子」として回収する、今までにはない貴金属イオンの革新的分離・回収技術の開発を目的としている。 一年目は水溶性のグリシン型キトサン誘導体(GAC)を新たに合成し、金イオンを含む溶液に溶解させ、そこに熱(60℃)を加えることによって約2時間で直径5-20 nmの真球状の金ナノ粒子を得ることに成功した。これは、GACの表面に金イオンが濃縮され、その後還元されてGACに包まれるように金ナノ粒子が生成したものと考えられる。 二年目は、濃縮・還元機能を付与した架橋クエン酸キトサン誘導体とチオール化キトサン誘導体を新たに合成した。金の吸着温度は30℃、45℃、60℃で24時間放置した。高pH領域や低塩酸濃度では吸着材表面や溶液中に直径10-20 nmの金ナノ粒子を得ることに成功した。しかし、そのナノ粒子は単一分散ではなく、凝集体も含んだ多分散型のナノ粒子であった。 三年目は、キトサン膜を作成し、その膜に金を吸着させて還元剤の溶液に浸漬すると、その膜表面に真球状体の金の単分散ナノ粒子(10, 30-50nm)が大量に生成することを見出した。他の貴金属(Pd, Pt, Ag)についても検討し、還元剤の種類によって貴金属間の相互分離の可能性が示唆された。また、実用化を目指してチオールやアミド系抽出剤と還元剤を組み合わせることによって、Au, Pt, Pdの混合塩酸溶液から金のみを「金箔」として分離回収することに成功した。
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