研究課題/領域番号 |
25550075
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
石川 信博 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (00370312)
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研究分担者 |
稲見 隆 茨城大学, 工学部, 准教授 (20091853)
渡邉 義見 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50231014)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヘマタイト / シリカ / 窒化ケイ素 / 還元剤フリー / 電子線 / 炭化ケイ素 / 鉄鉱石 |
研究実績の概要 |
平成25年度にヘマタイト(Fe2O3)とシリカ(SiO2)を重ね合わせることで両者の接触部を確保した透過電子顕微鏡(TEM)用試料を作製する方法を考案し、TEM内で電子線照射のアシストが必要だがシリカによりヘマタイトが還元されることを確認した。シリカは鉄鉱石中の不純物として最も多く含まれるものだが、その次に多いアルミナについても同様の実験を行ってみた。その結果、シリカ同様ヘマタイトを分解する効果は認められたが、鉄の析出は認められなかった。加熱後の分析結果より、アルミナ自体も電子線により分解してアルミニウムを析出させて、その中に鉄を固溶させたことが判明した。ただし、後の鉄の回収を考えた場合はアルミニウムと分離させなければならずシリカより行程が増えたことになった。 これらの実験を行う過程で試料を固定するホルダーが同時に試料と反応することを見いだした。またこの反応は観察を行わない場所(=電子線を照射しない場所)で起こっていたため、電子線の線量を最小限にして、この反応を詳細に観察したところ、ヘマタイトから鉄の析出が確認できた。メーカーに問い合わせたところ窒化ケイ素(Si3N4)と回答してきたので、試薬メーカーから改めて窒化ケイ素を購入し、ヘマタイトとシリカの場合と同様の方法で加熱実験を行った。その結果電子線の照射量を必要最小限にとどめた場合鉄シリコンの複合酸化物となり、次の段階として電子線を照射すると鉄が析出した。試薬とホルダーで結果が異なったのはホルダーはメーカーの製品であるため何らかの企業秘密に相当するような加工が加えられている可能性があるためと思われる。さらに、大気中で炭化ケイ素とヘマタイトの反応についても電気炉を使って試し、両者が一部分解している可能性をX線回折法によって確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電子顕微鏡の中ではあるがすでに数種類のセラミックスをはじめとして通常還元剤にあまり用いられない物質がヘマタイトを還元させることを見いだした。従って炭素が関与しない酸化鉄還元可能物質が想定を超えて多数みつかっており、その大半が通常化学的に安定とされ、還元剤や触媒としてあまり用いられていない物質である。工業的には生産量が粗鋼生産量に見合わなかったり、天然に存在しない物質もあるので今後実用に近づけた実験を行う場合にはその使い方も検討する必要がある。また当初の予想では電子線自体が還元剤として重要な役割を果たすと考えていたが、かならずしもそうでない物質も見つけたため、本研究課題の後継課題として行う計画であった、電子顕微鏡外での同様の現象を起こさせる実験条件の確立をはかるための予備実験を、早急に開始することとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題開始時の計画では27年度主として行う課題はa)反応高速化、b)見つけた現象の理論的考察、c)実用化可能性の検討、とサブテーマに分けて計画していたが、実際に酸化鉄の還元を引き起こした物質はそもそも還元剤として用いられないセラミックスなどが多い。このため、a)及びb)については通常の自然科学の法則そのものが当てはめられないことが明らかになってきており、新たな理論の構築も検討する必要がある。一方で、還元反応を起こす物質が当初の予想より遙かに多く見つかっており、全く新しい視点から反応を検討する必要も生じた。また、当初予想された電子線の関与が必ずしも必要でないと思われる物質が多かったことも踏まえて、c)にあたる実用化を念頭に置いた実験、すなわち電子顕微鏡の外で行う実験のウエイトを今後増やしていく。実際一部の物質については26年度から大気圧中での熱処理実験を始めており、27年度は引き続きこれらのバルク試料を使った実験も継続する。さらにヘマタイトを還元する効果を持つ物質は今後も多数存在することが予想されるため、これらの物質の発掘も精力的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初模擬的なバルク実験を行う予定で備品購入の計画を組み込んだが、これに変わる設備を既存の装置で代用できることが判明したため購入の必要がなくなったため、この経費を他の経費に移行した。このため次年度への繰り越しを行った。
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次年度使用額の使用計画 |
本課題を開始する時点で想定していない現象が次々と見つかったため大幅な研究計画の変更を余儀なくされた。従って本格的なバルク実験を行うためには本研究に続く研究課題の提案が必要でそれに必要な予算も遙かに高額になる見込みである。従ってこれについては別途競争資金への応募を検討中であるが、可能な限り早く研究を進捗させるため、本研究で27年度へ繰り越した予算は次段階の研究に移行するための実験に必要な物品の購入に充当する予定である。
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