研究課題/領域番号 |
25550080
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
馬場 凉 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (70198951)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ミズクラゲ / 運動制御 / 光 / クラゲ被害対策 / 自然共生システム |
研究実績の概要 |
本研究課題では、クラゲの浮遊挙動を解明し、これを制御することによって大量発生したクラゲによる取水トラブルや水産・漁業被害の軽減を目指している。そのため、ミズクラゲの拍動や体軸の転回といった〈運動要素〉ごとに外部刺激に対する過渡的な応答変化を詳細に調べる作業を行っており、研究2年目の実績概要は以下のとおりである。 1)固定光源を用いた拍動制御の試み:研究初年度では主に固定定常光光源に対するクラゲの応答を検討し、変調光に対するミズクラゲの光応答の検討を始めたところであった。その中で、拍動の基本周波数からわずかに周波数を変えた変調光刺激に対しては「逃げる」方向に拍動の周波数シフトをするという予備的な結果を得た。しかし、対象が生物個体という事情もあり、応答再現性は必ずしも得られなかった。そこで研究2年目はこの挙動の再現性を確認することに多くの時間を当てた。結果、緑色変調光のみによる実験では一定程度の頻度で同じ傾向の挙動が観測され、さらにパラメータを具体的に絞り込んだ検討の必要性が明らかになった。 2)ガルバノスキャナを利用したレーザー光走査照射システムによる運動制御の試み:研究初年度ではガルバノスキャナを利用する走査変調照射システムの構築を行った。当初、実験用の大掛かりな「櫓」を組み立てて実験水槽と反射鏡とを互いに固定したシステムとしていたが、試行錯誤を繰り返す中で反射固定鏡をシステムから切り離してシステムの作業自由度を高める仕様に変更しレーザー走査系を水槽等の〈水回り〉から出来るだけ離し、コンパクトにまとめる事ができた。これにより、作業性が向上し、ミズクラゲの8つの眼点に対する光刺激応答を検討することが容易になったと考えている。ただ、ガルバノミラー制御の自作プログラムの不調の修正や光学系の微調整等に時間がかかり、ミズクラゲに対する実照射は意図したレベルには至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、研究2年目には構築・完成した光ガルバノスキャンシステムを用いて様々な時間的・空間的パターンで各色のレーザー光をミズクラゲに照射し、クラゲの拍動あるいは体軸転回などモード選択的な運動制御について検討を行うとしていた。 しかし、研究実績の概要でも述べたように、対象が生物個体という事情もあり、応答や挙動の再現性を確認することに多くの時間を当てざるをえなくなり、また実験の作業性の向上という観点から櫓に組込んだシステムの見直し、修正を行うこととなった。その結果、水槽サイズをビーカーサイズから順に60cm程度の実水槽まで大きくしながら精度の高い変調光走査を実現するという準備段階で計画の遅れが生じてしまった。従って、ミズクラゲの8つの眼点に対して様々な時間的・空間的パターンでレーザー光を打ち込み、モード選択的な運動制御の可能性を探るとした計画は、着手したもののやや遅れている。 ただ、光ガルバノスキャンシステムの基本的な部分、特に光学系と制御プログラムについては着実に熟成しつつあるので、研究3年目には研究の進捗が十分に期待できる。また、水槽内で遊泳するクラゲに対して適切に光照射するために必要なクラゲ追尾システムの構築には多くの作業時間を要することは織り込み済みなので、研究のペース配分、残る課題へのリソース配分などに関して研究遂行上のリスク管理は出来ていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ほぼ完成に近づいたガルバノ光スキャン装置を用いて、ミズクラゲに対して様々な時間的・空間的パターンでレーザー光を打ち込み、モード選択的な運動制御の可能性を探る。その際、レーザー光照射パターンとしては当初計画に記したように、実験装置の特性を生かしてミズクラゲの8個の眼点あるいはマーカー点へ「同時に/右(左)回りに/左右非対称に/特定の眼点を追尾しながら」等のように行う。さらに、遊泳挙動のモード選択的制御検討では、照射光の照射方向(重力方向または水平方向)、光の波長や強度、変調と位相など、多くのパラメータについて検討を行う。 研究3年目では、レーザー光照射による制御だけでなく、微弱な電気刺激や超音波照射、あるいは光触媒技術を利用した局所的なpH変化、等々の複合刺激による制御可能性もあわせて検討する。これにより、各種外部刺激の組合せの中からミズクラゲの運動制御に有効な制御方法を見出す。 また、クラゲの各運動要素の解析のほか、クラゲ周囲の水流を可視化することも検討する。それには、水中に分散させた微粒子の挙動を画像解析(PIV法、PTV法などの粒子追跡・流体計測)によって追跡し、拍動変化や体軸変化に伴うクラゲの微妙な推進力変化を定量的に把握する。 さらに、ミズクラゲのライフサイクルの制御(例えば、ストロビレーション)の可能性を含め、フィールド実験を実際に行って検討した各種運動モード制御の有効性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主要な理由は、研究実施計画に記した半導体ブルーレーザーおよび流体画像パッケージソフトの購入を見合わせたためである。 研究実績の概要および現在までの達成度に述べたように、研究対象が生物個体という事情もあり、応答や挙動の再現性を確認することに多くの時間を当てざるをえなくなり、また実験の作業性の向上という観点から櫓に組込んだシステムの見直し、修正を行うこととなったものである。そのため、システムの拡張やクラゲ周囲の水流の可視化に必要な上記品目の購入を当該年度では見合わせた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究2年目で購入を見合わせた当初購入予定の上記品目の購入に当てる。なお、年度半ばまでの研究進捗状況および成果次第では、2016年5月予定の国際学会(釜山)での成果発表のための旅費に当てる可能性も保留する。
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