豪多雪地帯において人為的に形成された無立木草地の維持・管理の手法,技術を検討するため,これまでの閉鎖スキー場,観光ワラビ園に,同様に豪多雪地中山間地に成立している放棄田とナラ枯れ跡地を新たな野外操作実験地として加え,特に種子散布者,高次消費者で生態系の評価に適した鳥類に注目し,植生パターンと生物間相互作用を軸とした生物多様性維持機構としての生態系プロセスを明らかにした。その結果,閉鎖スキー場では閉鎖直後には先駆種を中心とした群落が成立しているが,その後進行遷移が認められる群落と退行遷移が予想される群落に分けることができた。また,各群落はA0層の厚さ,傾斜,および林縁からの距離の3要因により決定されていた。観光ワラビ園では,放牧地で木本の種数が少なく,ワラビ園では大半が低木性やつる性植物だった。ともに木本の成長は抑制され,草本の種数も多かった。管理放棄地では木本の種数が多く,かつ高木性種が多かった。木本は大きく成長し,草本は少なかった。以上のことから,現在人為的管理が行われている放牧地とワラビ園は,遷移の進行が抑制されて多様な草本が生育しており,管理放棄地は,遷移が進行して樹林化しつつあることが明らかになった。放棄田は藪性鳥類に繁殖環境などとして利用されており,遷移ステージが鳥類の生息に影響を与えていた。また,開放水面は水環境の乏しい中山間地域において水性鳥類の多様性を高めていた。ナラ枯れ跡地では,鳥類群集の変化は人為的な管理の影響を受けた藪・低木営巣ギルドが中心であった。この結果から,ナラ枯れにともなう下層植生の発達は多様な鳥類に生息場所を提供することにつながり,種子散布者,高次消費者としての鳥類の機能が発揮されると考えられた。以上のことから人為的管理,およびその放棄によって様々な遷移段階がモザイク状に存在することが,当該地域の生物多様性を維持していることを明らかにできた。
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