研究課題/領域番号 |
25550084
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
斎藤 裕美 東海大学, 生物学部, 講師 (50433454)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 南極 / 生態系 / 線虫 / 温暖化 / 群集構成機構 |
研究概要 |
近年、南極大陸に多くの湖沼群の存在が確認されその成立年代や環境により、湖沼ごとに特徴的な生態系を構築していると考えられている。また、南極では地球温暖化の影響が陸系よりも水系で高いと危惧されているが、湖沼の生態系自体が未開のままである。そこで本研究は、始めに湖沼の動物群集の基本的な解析をおこない、次に現地にて湖沼動物の温度変化実験をおこなうことで、温暖化に伴う極地の湖沼動物の影響を調べる計画であった。しかし平成25年度では、申請者の妊娠・育児により余儀なく研究を中断したため、安静中の状態で可能なデータ解析をおこなうしかなかった。 実績として、2008年2月にに採集されたぬるめ池のデータにて、ソコミジンコと共に採集された線虫類に注目し、各々の動物群と池内の諸環境との関係を調べた。本結果では、ソコミジンコならびに線虫の分布様式は単純に鉛直分布にはならず、各々が異なる環境要因を受け分布を決定すると考えられた。しかし、各々の環境要因は相互関係して池内の環境を構成しているため、最も影響を与えている環境要因の特定はできなかった。さらに、各々の線虫群の生態を含めた特徴と環境との関係では、Chromadora属は浅層で高密度に生息するため、表層に集まる植物プランクトンを餌として利用すると考えられ、Microlaimus属は硫化水素の影響の大きい底生藻類を利用できない水深に多く分布するため、硫化水素層に生息するバクテリアを餌として利用する可能性がある。Anticoma属は他の2属に比べ密度が著しく低く大型であり発達した大あごをもつことから、他の線虫を餌として利用する捕食者と考えられ、単純な鉛直分布は確認されなかった。最後にこの3属は海産性の線虫群の可能性があるため、塩分のあるぬるめ池が海とつながった際に移入した可能性があるが、3属のみ定着できた理由は今後の課題として残った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年、申請者は妊娠の経過不良(妊娠初期からの出血)により、手術をおこない、切迫流産と診断され、入院退院を繰り返し出産した。このため、昨年は安静状態が必要となり、デスクワークでの座ったスタイルの研究をおこなうことも腹部が張ってしまうことから難しく、横になったままでのパソコンを用いて線虫群集を解析する方法でしか研究を進めることが出来なかった。この後、感染症に高熱が胎児に与える影響が心配されたため、緊急に帝王切開にて出産したが、出産後、体調が戻らず、現在自宅療養をしながら育児をおこなっている。そのため、平成25年度に分析する予定であった2012年度の動物群集のコアサンプルの解析ができていない。平成26年度は育児休暇を8月までとるため、急ぎ未分析のサンプルの解析をおこなう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、妊娠・出産育児により研究が大幅に遅れた。平成26年度の育児休業から、職場復帰は8月下旬を予定しているため、平成26年度の約半年の主な研究内容は、昨年度の研究計画をおこなう。研究内容は、2012年にぬるめ池から採集されたコアサンプルから線虫の鉛直分布を分析し、池内の動物相が多く確認できる採集地点を確認し、動物の鉛直分布を分析することで、線虫群集が形成されている深度と群集構成を調べる。またこのサンプルは冷凍保存のため、生息している動物が存在する可能性があり、生息していた場合は、その動物群の記録と共におおまかな耐性温度を調べ、次年度の実験の温度を設定する際に使用する。 今後の研究計画の一番の問題点は、南極の現地実験をおこなう機会をえることである。同行者としての南極への渡航は、第56次(2015年)日本南極地域観測では陸上の湖沼研究チームが編成されないため(本来なら初期の申請通りに平成26年度の湖沼研究チームに同行できた)、少なくとも1年は現地実験の計画を延長しなければいけない。南極へ行く機会は同行者以外にもあるため、他の方法を本年度中に考える。また、実際渡航できた場合に向けて、現地実験での実験設備の設計をおこなう。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度、申請者は妊娠中の経過不良により安静中であったため、研究内容はパソコンを用いての従来の研究データをまとめるだけであり、他の作業は出来なかった。そのため、顕微鏡での分析に用いられるはずであった研究費を使用していなかった。よって、次年度の使用額が生じた。 【未分析のサンプル処理】平成25年度の研究計画にて分析する予定であった、コアサンプルが冷凍状態にて保存されているため、はじめに、その中の線虫を分析する(この分析の使用計画には実体顕微鏡を備品にて申請されている)。このコアサンプルにて、池内の動物相が多く確認できる採集地点を確認し、動物の鉛直分布を分析することで、線虫群集が形成されている深度と群集構成を調べる。また、冷凍保存のサンプル中では、生息している動物が存在する可能性があり、その場合、動物群の記録と共におおまかな耐性温度を調べ、次年度以降の実験の温度設定を考慮する際に参考にする。 【南極動物への温度上昇実験】温度上昇実験に対しての、実験水槽の作成をおこなう。現在の所、観測船内にて実験を実施するのが現実的と考えられ、このため船内でも実施できるコンパクトな実験設備の設計をおこなう。
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