研究課題/領域番号 |
25550084
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
斎藤 裕美 東海大学, 生物学部, 准教授 (50433454)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 南極 / 生態系 / 線虫 / 温暖化 / 群集構成機構 |
研究実績の概要 |
近年、南極大陸には湖沼群の存在が確認され、その成立環境により、湖沼ごとに地球上で最も多様性に富んだ生態系を構築していると報告されている。さらに、南極大陸では地球温暖化の影響が陸上の生態系よりも水域のもので高いと危惧されているが、湖沼の生態系システムがいまだ明らかになってない。そこで本研究は、南極の大陸隆起部に存在する雪の少ない露岩息の昭和オアシスに存在するぬるめ池の動物群集の鉛直分布解析をおこない、次に現地にて湖沼動物の温度変化に対する実験をおこなうことで、気候変動の温暖化に伴う極地の湖沼動物への影響を調べる計画であった。しかし、平成25年度に妊娠経過が良くなく手術のため入院し、1年間の休暇にて8月24日まで研究を中断し、昨年平成27年度より、分析を再開した。 平成27年度は、6月にSCESAPのタイの国際シンポジウムにてぬるめ池で2008年度に採集された線虫群の研究成果の発表をおこなった。12月に南極湖沼ではないものの、同じ貧栄養である湖沼の底生動物群集の湖底での維持システムに関わる論文を公表した。2月には、ぬるめ池で2012年に採集されたコアサンプルの詳細な分析が終わった。これより明らかになったのは、本研究地のぬるめ池の底質上の藻類を生息場とした線虫群は多様性が高く、底質中を生息場とした線虫群は限られた池の水深(2mと5m)にのみ出現し、主に構成種はAnticoma属1属であるため、池の底質中には多様性の乏しい線虫群であることがあきらかになった。また、2012年度採集の底質を1cm毎に切り分け、分析したコアサンプルから、堆積物の表層から2cmというきわめて浅い場所に集中して線虫が生息することがあきらかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27度は、2012年度に採集されたコアサンプルの分析を終え、海外での学会発表をおこなったが、論文公表までにはまだいたっていない。また、研究期間中、平成25年度の出産・育児にともなう1年半中断後、平成27年度は海外発表後吐血し、結核診断のため7月から2ヶ月程研究を中断した。診断結果では、結核ではないものの、結核と似た菌で症状も同じであり、復帰後も安静を必要とした。 研究復帰後、コアサンプルにて採集された線虫の分析をおこなった。分析では、コアを1cmに切り分け堆積物中の線虫を観測するため、5地点で3つのコアから計150サンプルを分析することとなった。また、1cmのコアを調べるのに3時間以上かかる場合もあり、すべての分析を終えるのに、4ヶ月を必要とした。担当した学生さんは当初2名のところを1名でおこなってくれたためこれだけの時間を要した。これら、2012年度のコア中の線虫群集の分析では、線虫は白い状態にてコアサンプルにいたため、コア採集直後死んでしまった可能性が高いことがあきらかになった。そして、2008年採集の藻類上の線虫群集と比べると、藻類上の線虫群は池の幅広い水深に出現したのに対し、コア中の線虫群は出現水深が2.0m、5.9mの狭い範囲に出現し、主な構成種はAnticoma属のみであった。また、堆積物中においても表相(0cm)から1cmのごく浅い部分のみに集中して線虫は生息していることがあきらかになった。 また、平成28年度の夏隊には現在、現地での採集計画と本研究の計画が合わなくなってしまったため(ぬるめ池へ訪れることができない)、研究計画の変更を検討している状態である。その場合は、現在存在する極地研究所での南極湖沼にて動物群集の構築する理由を調べる目的で分析をおこなう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年にて、2008年度のネットでの採集された線虫サンプル、ならびに2012年度のコアで採集された線虫サンプルを分析した結果を投稿準備中である。平成27年度にて2008年のみで投稿しようとしたが、極地研究所のサンプル提供者らとの話し合いより2012年度の結果を入れて論文を再構成し、Polar Biologyへの論文の投稿をおこなう。ただし、本論文がリジェクとされた場合は、Polar scienceまたはSCESAPのBulletinに投稿する予定である。この後、海外での研究者への意見を受けるため、12月におこなわれるBSE(イギリス生態学会)またはESA(オーストラリア生態学会)へ参加する予定である。 申請時当初と比べると、南極へ赴いて現地実験が出来ない可能性が高くなった。さらに、夏隊の陸上班がぬるめ池付近に行く計画がないことより、申請者以外の人間が現地にて代理で実験をおこなってくれる可能性も低く、この場合、現地実験ができない。南極へいけない場合、極地研究所に現在ある昭和基地周辺の湖沼群の底質の冷凍サンプルを提供していただき、南極湖沼における動物群集の維持機構を調べる。しかし、実際、近隣の湖沼5点での藻類中を調べてみた結果、動物群の存在が確認されないことより、ぬるめ池のように高密度で動物群を生息させる環境自体が昭和基地周辺の湖沼群では稀な存在かもしれないと予測される。他に動物群の存在する湖沼がみつけられなかった場合、ぬるめ池中のコアサンプルを用いて、堆積物中の有機物量等の底質の状況を調べ、ぬるめ池の動物群と環境との関係を分析し、動物群の維持機構を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
同行者として南極までの旅費と会議への参加への旅費を今年度は使用しなかったため、その旅費の多くが繰り越された。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、論文を投稿するため、英文校閲に研究費を使用する。また、海外学会にも参加するため、研究発表にも研究費を使用する。現地実験では、同行者として南極にいけない確立が高い。同行者となる場合はそのまま南極湖沼の温度耐性実験を現地でおこなう。一方、いけない場合、極地研究所に現在ある昭和基地周辺の湖沼群の底質の冷凍サンプルを提供していただき、南極湖沼における動物群集の維持機構を調べ、南極湖沼の動物が構築される要因を検討する。また、ぬるめ池以外の湖沼群にて動物群が確認できない場合、ぬるめ池がカイアシ類と線虫動物群集を確立できる機構を調べるため、コアサンプル中の有機物を分析する。底質中の分析では、砂泥の中に植物片の混ざった複雑な底質を観察しながら分析する必要があるため、デジタルカメラを購入し、大きな画面で確認しながら分析する予定である。
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