南極の大陸には、周辺部および露岩帯等の限られた地域に多くの湖沼群が分する。従来、南極の湖沼は陸上からの流入がないため超貧栄養湖であると予想されてきたが、これらの湖沼は成立過程により個々の環境が異なるため、地上で最も湖内環境の多様性が高いと考えられている。同時に、南極大陸では温暖化が陸域よりも水域にて顕著な地域もあるため、湖沼内の生態系への影響が懸念されている。 平成28年度は、従来分析したデータ公表としてBES(イギリス生態学会)とASLO(アメリカ先進陸水海洋学会)の2つの国際学会に参加し、投稿論文への内容の充実を目的とした。後者の学会へ投稿準備中であるが、現在、投稿前のプレ査読をおこない内容を修正している。また、データ提供を頂いた極地研究所への研究報告書を作成した。 平成28年度の夏隊の参加はできなかったため、極地研究所より近隣のぬるめ池と同じ塩湖のデータを頂分析したが、動物群は確認できなかった。また、ぬるめ池の詳細な分析として、2012年度のコアサンプル(採集水深、0m、2.0m、5.9m、7.9m、10.7m)にて分析された線虫群の分布の多様度と環境との関係を分析をし直したが、コア中の線虫の分布と環境要因には有意な関係が明らかにならなかった。そこで、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、コアの堆積物中の画像を分析した。各々の水深の表層にて、予想よりも珪藻類が高密度で優占し、メイオファウナの餌資源は豊富である可能性が高いことが解った。また、藻類は約5科で構成されることから、その多様性は著しく低く、線虫群集と同じくぬるめ池の特異的な環境に適応した種のみ生息しているものと考えられる。この藻類群落は円心目と羽状目が確認されるが、水深が深くなるに伴い円心目が少なくなるが、羽状目は変わらないため羽状目は底生性であり、餌資源として利用されるのは羽状目であると考えられる。
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