研究課題/領域番号 |
25550087
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
篠田 弘造 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (10311549)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水環境浄化 / 多孔質粒子吸着材 / ナノ粒子集合体 / 磁場応答脱着 / 環境負荷化学種除去 |
研究概要 |
水環境浄化技術のうち、溶存する有害化学種の分離に固体吸着材を利用したプロセスを扱う。吸着効率を追求した吸着材粒径の微細化は取扱いを難しくする。さらに、吸着と脱着の最適条件は大きくかけ離れており、一度吸着した化学種を効率的に脱離・濃縮し、吸着材を繰り返し利用できるシステムの構築は困難である。本研究では、分散ナノ粒子に匹敵する大比表面積ながら取扱い容易なミクロンサイズの多孔質磁性酸化鉄粒子を吸着材として用い、高い吸着特性とともに、交流磁場印加により吸・脱着溶液系に手を加えず物理的に脱着・濃縮分離可能な新しい水浄化システムの構築を目指している。本年度は、水溶液中の砒酸イオン除去を対象とし、まずカラム流通式の脱着系を用意して、予め飽和吸着量まで砒酸イオン溶液からバッチ吸着した粒子からの脱着挙動に関する基本データを得る実験を行った。吸着材には、溶液化学的手法で作製した多孔質酸化鉄粒子を用いた。吸着材を充填したカラムに脱離液を流通させることにより吸着材表面から砒酸イオンが脱着し脱離液とともに回収される。多孔性をもたない酸化鉄粒子との比較から、回収率は相対的に低く、吸着材内部の多孔質構造が脱離液の内部流通の障害となっていることが考えられる。 一方、多孔質吸着材の粒子内細孔サイズや形態を制御しながら作製するための取りかかりとして、原料となるリン酸鉄粒子の結晶性、粒子形状と作製条件との関係を詳細に調査した。結果、作製溶液のpHを調整することにより、大粒径かつ高結晶性のリン酸鉄粒子を得ることに成功した。強塩基性水溶液中で溶解・再析出させることにより多孔質磁性酸化鉄粒子を得るが、条件により細孔径分布が異なることを見いだした。さらに、磁気特性や脱着・濃縮プロセス条件の最適化を図ることにより、実用に堪える吸着材粒子およびこれを用いた水浄化システム構築実現への基本的知見、情報蓄積が整うと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
磁場中で脱着を行うために、カラム栓に用いるフリッツ(フィルター)をステンレスメッシュから磁場の影響を受けないPTFE製のものに切り替えた際、素材の疎水性から水の流通における抵抗圧が高くなり、思うように実験できなかった。メッシュサイズを大きくした上で親水化処理を施して解決した。また、多孔質酸化鉄吸着材の原料となるリン酸鉄粒子を作製する際、結晶構造の異なる異相の共析により粒子径状や粒径、その後の溶解再析出工程における反応性などに不均一を生じる問題があり、最適化に期間を要することとなった。現在、一回の脱着試験に数十時間を要し、十分な試験回数を確保できなかったことも、当初の予定よりやや遅れた原因である。ただしこれは、脱着時に加熱や磁場の印加等を行っていない基本条件でのことであり、一定以上の磁気応答性、細孔構造をもたせることができれば、脱着効率の向上によって脱着が促進されると見込まれる。現在の遅れは、本研究実施計画の全体としては影響ないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、塩基性条件で溶解度の高い鉄化合物粒子を原料とし、その溶解再析出反応により原料粒子外形を残しつつ酸化鉄ナノ粒子凝集体からなる多孔性集合体を形成させる多孔質酸化鉄粒子作製プロセスを採用している。現状では基本構成粒子径はナノオーダーであり、吸着には有利であるが常温領域で磁気応答性を示さない超常磁性となる。凝集体中のナノ粒子同士の適度な距離が加熱焼結を難しくし、高温で処理すれば非磁性酸化鉄に相変態してしまう。また、多孔質粒子内部の細孔中に毛細管現象によって吸着した化学種を効率よく脱着させるには、粒子内部における脱離液の流通性が求められる。そこで、今後は(1)吸着化学種の脱離促進のための磁場応答性向上(2)脱離化学種を含む脱離液の粒子内部の流通性を高める細孔構造最適化を目指す。吸着材を構成するmaghemite酸化鉄は、一般的な磁性酸化鉄であるmagnetiteよりも磁気特性がやや劣るので、還元雰囲気での低温加熱によりFeを一部還元してmagnetiteを形成させる、あるいは表面にCoイオンを液中吸着させた上で熱処理することにより、磁気特性の高いコバルトフェライトを形成させるなどの後処理を検討する。また、多孔質吸着材の原料となるリン酸鉄粒子の作製プロセスや、その溶解再析出反応プロセスの詳細な検討により、粒子内に充填される酸化鉄凝集体のサイズや充填形態を最適化する条件を求める。 一方、一度用いた脱離液の繰り返し流通による回収液の濃縮も試みる。加熱や磁場印加等脱離促進のない条件では、2回目の流通で再吸着が起こることが確認されたが、磁場を印加することにより再吸着を抑制し、効率よく繰り返し流通・濃縮が可能と期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
26年度に、設備備品として交流磁場印加装置を導入する予定であり、そのための物品費確保が必要である。また、吸着材粒子表面における化学種の吸着状態や表面構造を解析するために放射光実験施設利用を考えており、その使用料等の費用も確保しておく必要がある。 磁場中脱着試験実施のための、交流磁場印加装置導入など物品購入、成果報告や情報収集のための旅費、放射光利用施設の成果公開優先課題としての申請に伴う使用料のために使用する計画である。
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