研究課題/領域番号 |
25550094
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
佐々木 壮一 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00304965)
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研究分担者 |
山口 朝彦 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00284711)
馬越 孝道 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (30232888)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイナリー発電 / タービン / ヒートポンプ / 自然冷媒 / 熱流体計測 / 再生可能エネルギー / 地熱エネルギー |
研究概要 |
この研究は,未利用の温泉熱エネルギーを再生可能エネルギーとして積極的に利用するための小型バイナリー発電システムの設計技術の確立を目的としたものである.このサイクルの作動流体には,環境負荷の小さな自然冷媒(CO2)が採用されることに特徴がある. CO2によるヒートポンプの技術をランキンサイクルに応用することで,システムの開発コストを抑制することができた.CO2の超臨界圧力は7.6MPa(31.1℃)である.この作動流体をランキンサイクルで循環させるためには,その圧力に抗して作動流体を循環させるための高圧のポンプが必要になる.その循環ポンプには,油圧機械向けのピストンポンプを応用した.ヒートポンプサイクルに関する先行研究の現地調査を通して,CO2によってタービンを駆動させるための運転条件が明らかになった.小浜温泉(長崎県)の源泉の熱水温度は90℃以上である.この地熱エネルギーを実験室で再現させるための配管系統や温水の循環システムを準備した.基礎発電システム内部の作動流体の量を調整するための封入機構を設計し,その配管系統を一部施工した.スクロールタービンの基本的な設計の仕様について研究協力者と検討を重ねた.圧縮機を膨張機として応用するために,ヒートポンプユニットに搭載されているコンプレッサーの駆動試験を実施した.循環ポンプ出口側の圧力上昇量を手動で制御することを可能にするためバイパス配管系統,システムへ封入された冷媒の質量の測定方法,冷媒の気液分離装置などを設計した.京都大学主催の再生可能エネルギーに関する研究会に参加し,飯田市における再生可能エネルギーの取り組みなどについて調査した.エネルギー・資源学会の調査委員会に出席して,分散型バイナリー発電システムの展望と課題について議論した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の実施計画の到達目標は超臨界CO2ランキンサイクルの試作であった.この実施計画は,(1)基礎発電システムの試作,および(2)基礎発電システムの性能評価の二つの実施項目から構成される.基礎発電システムのヒートポンプユニットには,加熱能力4.5kW,圧縮機電動機出力0.98kW,設計圧力9.5MPa,冷媒R744,冷媒封入量0.9kgの装置が選定された.作動流体をシステム内部で循環させるための設計流量は約7.0L/minであり,その循環ポンプには電動機出力1.5kW,最大圧力14MPaの油圧ポンプが選定された.CO2によってタービンを駆動させるためには,低圧側は6MPa(25℃)の液状流体であること,高圧側は約10MPaまで昇圧させる必要がある.100℃以上の温度で制御しながら循環させることが可能な温水循環装置(24L/min)を導入した.鋼鉄製シームレス容器10Lに炭酸ガス7kgを封入し,この容器から発電システムへ作動流体を充填する機構を開発した.ヒートポンプサイクルから圧縮機を取り出し,タービンとして駆動させることが可能であるかを試験した.その結果,機械構造上の問題からその圧縮機をタービンとして駆動させることができないことがわかった.このことが原因でシステムの性能評価の実施計画に遅れが生じた.高圧作動流体の流量の計測にはコリオリ流量計が用いられるが,開発費の面からその導入は困難である.スクロールコンプレッサーの開発についても,(1)材料強度学的な視点に基づく機械材料の検討,(2)高圧作動流体による高耐圧スラスト駆動軸受けの開発,(3)高圧ガス封入のための圧力容器の開発など,具体的な設計上の課題が明らかになった.超臨界CO2ランキンサイクルの基礎発電システムの開発は大きく前進したが,同システムの性能評価を実施するには至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度からの継続課題である基礎発電システムの性能評価を達成するために,タービンの開発と並行して,その代替装置として流量調整弁によってタービン負荷を擬似的に与えながら基礎発電システムの配管系統の開発を推進する.基礎発電システムの低圧側の冷媒充填ポートに液状の作動流体を充填するために,保存容器と室温を設計上の温度に制御する.基礎発電システムの高圧作動流体の流量を見積もるために,2点間のエンタルピーの差を利用した独自の計測技術を開発する.バイナリー発電システムとしての実際の運用を勘案し,作動流体の放熱は空冷によって熱交換させる.著しくそのタービン出力が低くなる場合には,水冷による熱交換器の開発も検討する.水-グリセリン混合液によって100℃以上の高熱源側のエネルギーを再現させる.平成26年度の研究実施計画に基づいて,まず,(1)革新的タービンの開発を推進する.開発費の制約から,自然冷媒のヒートポンプで利用されているスクロールコンプレッサーのタービンへの応用を検討する.また,その機械的構造がより単純なロータリータービンの内部流れをCFD解析によって再現させる.CFDによって最適化された運転条件,および基礎発電システムの実測値の性能評価で明らかになった運転条件に基づいて,より製造コストが抑えられた革新的タービンを開発する.(2)革新的タービンの性能評価では,主に,軸トルクと回転数を計測することが可能な装置を開発し,基礎発電システム内部の流量とタービン出力との関係についての機械的性質を明らかにする.基礎発電システムのサイクルを構成する①加圧,②吸熱,③断熱膨張,④放熱の主要箇所おける作動流体の状態量を計測し,革新的タービンによる基礎発電システムのp-h線図,T-s線図を解明する.革新的タービンの機械効率70%以上の達成を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
ヒートポンプサイクルの圧縮機の動作試験を実施した結果,機械構造上の問題からタービンとして駆動させることができなかった.このため,基礎発電システムの開発を完了するには至らず,同システムの性能評価の実施計画に遅れが生じた. タービンの代替装置として,流量調整弁によってタービン負荷を擬似的に与えながら基礎発電システムの配管系統の開発を進めるよう計画を修正した.この修正計画に従って,次年度使用額の予算執行を完了している(平成26年4月現在).
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