研究実績の概要 |
一般に合意形成過程を,一つの地域集団に属する多様な価値観を有する人々の間で,それぞれの異なる主張を通して,集団的意思決定を探り出す過程であると定義する.「風土を評価するための合意形成」といった一般論ではなく,具体的な地域問題において,当該市民が地域の風土との関係からその問題を考え,意見を述べ,新たな気づきが生まれる機会を提供するために,市民自ら関わるようなゲーミングを設計した. 対象とした地域は,2011年3月の東日本大震災の大津波で甚大な被害を受けた南三陸海岸に位置する農村漁村である.大きな災害からのインフラ等の復旧の目処がつき,南三陸海岸の多くの農漁村には中長期的な地域づくりが求められている.ここでは,防潮堤建設が及ぼす「環境」(風土)の変化への地域住民の思いを代弁するような役割演技型ゲーミングの開発とその評価,風土とのかかわりが深い地域資源(農業・漁業・観光)を生かした地域外交流に対する提案ゲーミングの開発と評価を行った. 前者では, 防潮堤建設問題のような合意形成への十分な時間が必要な場面では,今回のゲーミングが当事者の体験談や気持ちへの共感と,社会的視点獲得という意味で一つの有効な手段であることが確認できた.ただし,主に被災住民の話を聞くことを他者視点獲得や共感の手段と捉え,ディスカッションの役割と区別して設計していなかたため,ディスカッションがどのように共感や他者視点獲得に影響を与えたのかはっきりしていない. 後者では,ゲーミングを通して,観光客としての役割から地域ブランドプラン作成の役割に変化すると,被験者に意識の変化が生じることが明らかになった.また,実際の地域住民と意識を比較することで,その変化をより明らかに示した.さらに,地域ブランド作りの方向性によって,意識変化に違いが生じることを明らかにした.
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