インドのアッサム州は沈香植林に関する研究とビジネスの最前線である。昨年度訪問したミャンマーやラオスの沈香オイルの生産企業もインド同州で技術研修を受けたり、情報収集を行ったりしていた。まず、インド環境省(環境森林気候変動省)傘下のアッサム州Jorhatにある熱帯林研究所(Rain Forest Research Institute)を訪問し、所内の植林地や実験室を視察し、情報収集を行った。次に、同州内のHojaiでは、Ajimal社の植林地を見学した。同社からほど近い8ヘクタールの植林地には約4万本、10ヘクタールの植林地には約4万5千本のマラッカ沈香(Aquilaria Malaccensis)が植栽されていた。さらに、大規模な植林地もあるとのことだった。この地で生産された沈香オイルは主に中東方面で利用されている。イギリスの大英図書館アジア・アフリカ資料室では、ヨーロッパと東南アジア、南アジア、日本を含む東アジアの香料関連の貿易史の資料を収集した。 これまでの収集データをもとに、近刊の図書『狩猟採集民からみた地球環境史――自然・隣人・文明との共生』において、東南アジア島嶼部における狩猟採集民と隣人との関係について論考をまとめた。同考では、林産物採集を含む狩猟採集という生業を営んできた人びとの社会関係について論じた。その手がかりとして、ボルネオ島の狩猟採集民をめぐり論争の的となったカール・ホフマンの問題提起から検討した。ホフマンの仮説は、狩猟採集民プーナン人(Punan)は農耕民社会から分離した人びとに由来し、アジアの交易ネットワークに組み込まれる形で林産物採集に特化して生き残ってきたというものである。この仮説は妥当なのか。仮説への反論を踏まえた上で、狩猟採集民はなぜ今日まで存続できたのかについて追究した。
|