本研究では、持続可能な資本主義を支える仕組みとして注目されている社会的責任投資(Socially Responsible Investment:SRI)について、実験経済学的な手法を用いて投資家行動の分析をおこなった。投資家行動を決定づける大きな動機として、利他性、時間選好、リスク選好を想定し、これらがどの程度の影響を投資家行動に与えているかについて経済実験を用いた検討をおこなった。結果として、投資家行動に強い影響を与えているのは利他性とリスク選好であり、利他性が高いほどSRI投資が促されること、また危険回避度が高いほどSRI投資が促されることが明らかになった。さらに、行動経済学的な知見に基づき、情報公開を通じた社会的圧力による影響を検討するため、投資家情報の公開による影響を検討する経済実験をおこなった。本研究における投資家の情報公開とは、投資家の顔写真と投資結果の公表である。情報公開を含むトリートメント群と情報公開を含まないコントロール群を用意し、SRI株と普通株に対する投資をおこなう研究室実験をおこなった。結果として、投資家情報の公開はSRI株に対する買い注文数にある程度の影響を与えるが、SRI株の価格に影響を与えるほど強いものではないことなどが明らかになった。これらの結果から、SRI投資が今後さらに拡大していくためには、SRI株が持つ社会的特性を積極的に伝達していくとともに、投資家どうしの情報交換を促すことが有効であることが指摘できる。
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