研究課題/領域番号 |
25560015
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
高木 隆司 東京農工大学, 工学部, 名誉教授 (80015065)
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研究分担者 |
水野 慎士 愛知工業大学, 情報科学部, 教授 (20314099)
大内 克哉 神戸芸術工科大学, デザイン学部, 准教授 (70258177)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | デザイン教育 / 科学体験 / 自然観察 / 形の科学 / デザイン制作 |
研究実績の概要 |
簡単な実験によって視覚的に魅力のある現象の観察をデザイン系の学生に体験させ、それによって得た印象や知見をデザイン活動に応用させるという趣旨の教育を、本研究グループでは従来からおこなってきた。本研究の目的は、その教育方法を確立することである。ここで追及している教育方法では、学生が得た経験や知見を、レポートではなくアートやデザインの作品として発表してもらうことが最大の特徴である。 昨年度、今年度ともに、学生は科学体験に興味を示し、それをデザインに応用して自分独自のデザインをすることに熱心に対処していた。そのことは、授業の最後におこなった発表会で学生たちが示した作品によって確認できた。学生たちは、大学で学ぶデザインの基礎的な手法に加えて、授業中の科学的な体験から得た自然現象に対する見方を盛り込んだ作品を制作していた。また、最後に実施した授業に対するアンケートにおいては、「実験観察した現象や、そこに現れる形が美しい」という感想が目立った。このことは、学生たちが自然現象を、彼ら独特の感性で見ていたことを示すと思われる。 また、今年度に目立ったこととして、授業で体験した内容を発展させて、自主的な研究を企画し実施した学生がいたことである。その例は、以下の達成度の欄で紹介する。自主的研究活動の傾向は、本研究の成否を左右するほどの重要な意味があると考えられる。 デザイン系の学生を惹きつけるようなテーマを、研究者側が開発することも同時に行った。たとえば、複素数の代数方程式をコンピュータによって解くときに現れる特殊な模様を書と組み合わせる方法、縞枯れ現象のコンピューターによるモデル解析、縄文土器制作時に縄目を押しつける作業の計算機シミュレーションなどを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究者側が意図した教育方法が学生に十分に伝わり、科学体験に基づくアート・デザイン制作も学生たちが熱心に実施したことから、上記の評価を選んだ。 なお、研究実績の概要の欄で触れた学生の自主的な研究について、ここで補足説明をしておく。この自主研究の成果が新たなアート・デザインにつながった例が多かったならば、上記の(2)の評価ではなく、(1)の予想以上の評価を選んだはずであるが、以下に述べる例のようにそれは完璧ではなかった。 たとえばある学生は、銅線と硝酸銀溶液を用いて樹枝状の銀が析する現象(授業ではシャーレ内に実現させた)を顕微鏡を用いて観察し、DVDに記録した。発表会では、それを編集したものを披露した。また、分岐した河川の形について授業で学んだ学生は、壁のひび割れや手のひらの毛細管ネットワークのような身の回りの実例について、多数の詳細な鉛筆スケッチを残した。これらの作品は、デザイナーに限らず自然科学の研究者に対しても、強いインパクトを与えるものであった。ただし、これらの作業が非常に大きな労力を要したせいか、それを基にしたアートやデザインには至らなかった。本研究者が担当している科目は、デザインの基礎を学ぶものであり、もし卒業制作でこのようなテーマを選んだら、大きな成果につながったであろう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の当初の目的、すなわち学生に科学体験をさせ、デザインの制作をおこなうという教育方針は、順調に進んでいるので当初の方針どおりに進める。 これに加えて、研究実績の概要と評価の理由の欄で述べた、学生による自主的な科学研究を推奨していくこと、およびそれをアート・デザインにまで発展させることを、今後の課題として追加する。そのためには、どのような内容であれば学生は自主的研究に進むのか、そのための必要最小限の知識をどのように教えるのか、研究の実施において教師の側はどの程度まで援助すればよいのか、などの問題点を考慮する。このような問題点は、理科教育などの分野では従来から考慮されてきたものであろう。本研究における特徴は、このような教育法をデザイン系の学生に実施するということである。 現在、デザインという分野は、工業製品やファッション、建築のデザインにとどまらず、社会や科学技術のあらゆる場面で存在価値を高めているように思われる。その中で活躍するべきデザイナーは、どのような体験をし、どのような素養を身につけるべきかということが、将来は重要な問題になると思われる。今後の研究では、このような問題意識を背景にして進めるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、今年度の活動を紹介する冊子を作成する予定であった。その冊子の編集は、デザイン系大学の学生に頼み、その謝金を今年度に支出した。ところが、その学生が冊子の編集に意欲的に取り組み良い内容にしようとしたために、勤務時間が長くなり謝金の額が予定より超過した。そのために、冊子の印刷費用が今年度の予算で支出できなくなった。そこで、印刷は来年度に実施することにして、残額を来年度に繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度のその他の経費に次年度使用額を追加して、冊子の印刷を行うことにより、支障なく科学研究費の運用ができる見通しである。
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