研究課題/領域番号 |
25560024
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小林 哲則 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30162001)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 高齢者コミュニケーション / SNS / 高齢者支援 / ユーザインタフェース |
研究実績の概要 |
高齢者のSNS利用障壁としては,「難しくて使えない」という操作行動上の問題と,(何が起こるか)恐くて使えない」という心理障壁の問題とがある。 「難しくて使えない」という問題については,使用したいコンテンツへ接続するための一連の手順を包含した「チャネル」と呼ぶ基本構成要素を,フラットな構造のメニューに配置することで簡易な操作を実現する「チャネル指向インタフェース」を導入した。このインタフェースのパーソナライズを家族等の支援者が非同期で遠隔から支援する枠組みを実現することで,統一された操作手順をコンテンツ非依存に提供することができるようになり,「難しくて使えない」問題はほぼ解消できた。 「恐くて使えない」という問題については,25年度に,使用誤ると問題を引き起こす可能性のある機能を全て隠蔽することで,間違えた使い方をしても致命的な問題が生じないインタフェースを実現し効果を試した。しかし,高齢者の心理的な抵抗感は改善できず,原理的に安全なインタフェースを提供するだけでは不十分であることが分かった。そこで26年度は,まず情報を送受するにおいて,高齢者が心理的な障壁を感じないコミュニケーションの形態についてアンケート調査を行った。この結果,高齢者は,メールには親しみがあり,メールであれば情報を送受することに抵抗を感じないことがあきらかになった。これを受けて,高齢者用SNSの利用において,ネイティブなSNSの利用はコンテンツの閲覧にとどめた上で,コンテンツに係るインタラクティブなコミュニケーションの部分は,SNSの閲覧インタフェースと切り離してメールでやりとりをする仕組みを作成し,チャネル指向インタフェースに組み込んだ。小規模な試用実験の結果,効果が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高齢者が抱えるSNS利用障壁のうち操作行動上の問題については,26年度までに行ったチャネル指向インタフェースの導入と,その利用の遠隔支援の仕組みづくりによってほぼ解決できた。心理上の問題については,25年度に検討を元に26年度までに問題解決のための基本設計を終え、解決の目処を付けた。25年度の検討では「高齢者がどのコミュニケーション手段を安全と信じているかを明らかにするとともに,それを用いたSNS利用の仕組みをつくること」を課題として設定していた。まずこの課題に対し、多くの高齢者が「電子メール」を信頼するインターネットコミュニケーション手段として捉えていることをアンケートにより明らかにした。ここでは、意図しない第三者への漏えいなどの不安からSNSでやりとりしたくない情報の場合でも、「電子メール」のように、高齢者が安全だと信じているコミュニケーション手段を用いた場合には、不安なくやりとりが可能となるという仮説を検証している。 これらの知見を活かし、26年度は操作行動上の問題と心理的問題とを解決するための仕組みを備えた、実証実験システムの設計/実装を行い,これをほぼ完了した。具体的には、チャンネル指向インタフェースを拡張し、コンテンツの閲覧と、コンテンツに係るインタラクティブなコミュニケーションの部分を切り離して利用する仕組みを構築した。ここでは、ネイティブなSNSの利用はコンテンツの閲覧にとどめた上で,通常タイムライン等SNSの一部で行っている,メッセージのやりとりの部分を,チャンネル指向インタフェース経由のメールシステムで実現している。 次年度は,本格的な被験者実験を通じて評価を行なう予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
26年度までに、操作行動上の問題と心理的問題とを解決するための仕組みを備えた、実証実験システムの構築を概ね完了している。最終年度はこのシステムを用いて実証実験を行い、次の仮説を検証する。 ・高齢者は、チャンネル指向インタフェースを用いることで、操作上の不安を抱えることなくSNSの利用が可能となること ・高齢者は、SNSと切り離されたコミュニケーション手段を用いることで、心理的な不安を感じることなく家族とのコミュニケーションが可能となること ・家族に代表される高齢者の支援者は、チャンネル指向インタフェースの遠隔支援システムを用いることで、持続可能な負担で高齢者の支援が可能であること 重要なことは,高齢者が安全だと信じるインタフェースを,共通のコンテンツを話題にしてメッセージをやりとりするというSNS本来の目的を損なわずに提供することにある。既に述べたように,ここで採用するアプローチは,コンテンツの閲覧とコミュニケーションの切り分けによって安全性を印象づけようとするものであるが,SNSの本来の目的からは,コンテンツ閲覧とコミュニケーションは密に関連することを印象づけることが求められる。これら一見背反する要求を両立することができているかどうかを丹念に調べながら評価を行い,システムの改善に結びつける。 また提案手法の実利用のためには、家族が「支援者」として高齢者のシステム利用を支えることが持続可能であることが重要である。提案手法の特徴として、システム構成に「支援者」の存在が組み込まれていることが挙げられる。「支援者」の存在を前提とするからこそ、高齢者に対して単純なインタフェースの提供と、家族とつながっているという安心感の提供が可能となる。実証実験では、家族が「支援者」としてシステムへ参加する上での障害を明らかにしながら、システム全体の改善点を見つける。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験プラットホーム変更にともない,被験者実験に必要となる物品費が増えた。このため,当初予定していた海外出張をとりやめこれに充当した。また,実験の補助者,被験者は無償ボランティアの協力を得ることができため,謝礼が不要となった。これらの変動により,10万余の余剰金が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記の理由で生じた余剰金は,主に実験プラットホームの拡充にともなう物品費に充当したい。
|