研究実績の概要 |
保育所等の簡易プールで毎年頻発している病原大腸菌等による集団感染を防止するため,本研究では,衛生リスク評価により暫定リスクレベルを設定した(平成25年度)。本年度は,暫定リスクレベルとその対応策を協力施設に説明し,昨年度と同様に採水および衛生検査を行い,リスクレベルの検証を実施した。 メタゲノム解析は,より直接的に試料中の細菌叢を明らかにするため,水試料5Lを加圧ろ過容器に入れ,高圧窒素ガスにてフィルターろ過し,そのフィルターから細菌ゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAを試料として,次世代シーケンサーを用いた配列解析を行った。解析した全ての水試料の菌叢は,腸管由来の4大細菌門(ファーミキューテス門,バクテロイデス門,アクチノバクテリア門,プロテオバクテリア門)および手の表皮に優先して存在するデイノコッカス-サーマス門の計5門が解析数の99.8~100%を占め,使用者の体表および腸管から混入した細菌であることが明らかとなった。特に,プロテオバクテリアは,各試料の菌叢中で最も高い76.2~97.6%を占め,その内訳は,腸内細菌が多く含まれるγ-プロテオバクテリアが最も多く,次いで土壌細菌が多いβ‐プロテオバクテリアであった。ε‐プロテオバクテリアは,解析した全菌叢の1%以下であるが,カンピロバクター属細菌が含まれ,γ‐プロテオバクテリアには,0~3.5%の割合で大腸菌が存在した。次に,排泄が十分に自立していない1~2才の幼児が使用したプール水試料では,腸内細菌が多いγ-プロテオバクテリアが最も多いのに対し,排泄が自立し,プール出入が活発な3~5才の幼児が使用した水試料では,土壌細菌が多いβ-プロテオバクテリアの割合が高く,細菌叢は幼児の成長過程を反映していた。 本年度の研究結果から,プール水中の細菌叢とその由来を明らかにし,日和見感染を含むヒト病原細菌の存在および衛生検査結果から,本リスク評価の妥当性を検証することができた。
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