研究課題/領域番号 |
25560067
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
篠原 歩 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (00226151)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 言語理論 / オートマトン |
研究実績の概要 |
本研究課題は,タブレットPC,スマートフォンなどの携帯端末でも容易に利用可能な,大学生向けのe-learnigシステムの構築を目指すものである.具体的な教材として,「オートマトン・言語理論」に焦点を絞って,各種の端末の利点を活かしたシステムのプロトタイプを作成することを目標としている. プロジェクト2年目の今年度は,申請時点での予定通り,まず反復補題を理解し活用できるための提示法の開発に取り組んだ.形式言語理論において,反復補題は中心的な課題の1つであり,各種言語に依存した多種多様な結果が知られている.それらについての論文を再調査し,基本原理を確認した.そしてこれを初学者にわかりやすく提示するためのインターフェースの設計を行った.初学者にとって,この補題を理解するのが難しい最大の原因は,全称量化と存在量化の入れ子構造にあると考えている.特に,補題そのものの入れ子構造が,実際にこの反復補題を用いて言語の非正規性を証明するときにはその否定形で使われることが理解の妨げになっていると思われる.そこで,この入れ子構造を対話的に操作し理解するするためのシステムのプロトタイプを作成した.このシステムはJavascriptを用いて実装しており,通常のブラウザから違和感なく操作できることを確認した. また,今年度に予定していたもう一つの研究項目として,タブレットPC やスマートフォンでの動作や操作性の確認もあわせて行った.前年度の調査で利用したHaxeに加えて,Typescript言語もJavascriptの型付拡張として成熟してきているので,その適用の可能性を探った.現状ではHaxeで開発したものの方が実行速度としては高速であるが,今後の計算機の速度向上を見込めば,Typescriptでも十分なものになりそうであると考えており,今後も両者を併用しながら開発を進める予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標に掲げていた通りに,まず反復補題に関して,サーベイと対話的学習システムのプロトタイプ作成ができた.文献調査の結果,様々な形式言語のクラスに対する反復補題が知られており,言語と特徴付けとして,またある言語がそのクラスに属していないことを証明するための数学的道具として用いられていることが再確認できたが,その基本原理は言語クラスの最も下にある正規言語のものと同じである.したがって言語理論の学習システムを目指す本システムとしては,この正規言語の理解に力点をおくことが妥当である.今年度の研究開発により,反復補題の理解の妨げとなっている全称量化と存在量化の入れ子構造を理解するための対話的システムのプロトタイプを作成することができた.同種のものは本課題で参考にしている先行研究のJFLAPでも使われているが,本課題ではJavascriptで実装しているので,特にインストール作業を行わなくても通常のブラウザを用いて,PCでもタブレット,携帯端末でも同様に操作ができるという利点が確認できた. もう一つの課題であった,タブレットPC等での動作や操作性の確認についても,おおむね予定通りの進捗があった.ハードウエアやソフトウエア開発環境は変化が著しい分野であり,常に技術動向や市場に注意を払う必要がある.昨年度は主にプログラミング言語Haxeについて適用可能性を探ってきてよい感触を得ていたが,同種のプログラミング言語Typescriptも開発が進み,今年度に入って数冊の和書の解説書が相次いで出版されるなど,活況を呈している.そこで今年度はこの言語と開発環境についての検証を行った.実行速度の点で,現時点ではやや劣る部分もあるものの,十分に有用であることが確認できた. 以上のことから,今年度もおおむね順調に研究が進展していると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度にあたるので,申請時の予定通りに教材としての完成度を高め,多くのユーザに検証してもらい,そのフィードバックをもとにさらなる機能向上を目指す.そのためには,ユーザ管理のしくみやデータベース管理機能など,本研究課題に特化したものではないが必要な技術要素がいくつか存在する.これらについても,それぞれ適したものを評価し取り込みながら開発を続ける. 一方,計算学習理論,文法推論の観点からの学習難易度の再検討についても引き続き考察を続ける.これまで主に行ってきたのは,ある確率分布に従って互いに独立に発生した例を学習者が受動的に観察したときの学習可能性であったが,これに対して学習者が能動的に質問できる質問学習の枠組みにおいての学習可能性の再検討を行う. さらに,当初の申請課題にも記述しているとおり,学習者が飽きずになんども利用し続けるためにはゲーム的な要素も重要である.だんだん学習が進むにつれてできることが増えるといったストーリー性や,視覚効果,音響効果も考慮にいれて効果的な学習システムになるよう,工夫を続ける予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
システム全体の作り込みや様々な機能の追加を行う最終年度に謝金を多く使いたいと思い,今年度はそれぞれの支出を抑制した.
|
次年度使用額の使用計画 |
研究発表や資料収集のための旅費と,システムの動作検証のための物品購入,そしてシステムの仕上げに協力してもらうプログラミング作業の謝金に使用する.
|