本研究は、大学のESDとして実践が広がる環境人材育成の事例を批判的に検討し、特にその多くが推進する「現場体験」について、現場「についての」「を通じた」教育を超え、現場「のための」教育へ発展させることの重要性と、そうした教育と専門的・科学的教育との衝突を乗り越えるために学生や教員が経る「アンラーン(unlearn)」の過程、それを通じた学生と地域のレジリアンス(変化に適応してストレスから速やかに回復する能力)育成の可能性と課題を明らかにすることを目的とした。最終的に、以下の成果を達成することができた。 1)大学の環境人材育成事業を通じたESDの可能性と課題の提示:「国連ESDの10年」における重点的取組とされた文部科学省「戦略的環境リーダー育成拠点形成事業」について、各実施大学の実践を横断的に検証し、実施体制や教育内容におけるESDとしての可能性と課題を提示した。 2)大学のESDとしての環境人材育成における「現場体験」と「アンラーン」の意義と課題の提示:「現場(と教育・学習)」「体験(経験)教育(学習)」「レジリアンス」「知のあり方(ローカルな知とアンラーン)」等の視点から先行研究を検討し構築した枠組をもとに、上記事業における実施大学の教員・学生を対象に実施した聞き取りを分析し、「現場体験」の意義や課題と「アンラーン」のプロセスについて検討し、求められる対応を提案した。 3)大学のESDとしての「現場体験」を通じたレジリアンス育成に関する可能性と課題の提示:大学教育に「現場体験」を組み込み「アンラーン」を促すことで学生と地域のレジリアンスが育成されるという仮説を、学生・修了生への聞取りから検証し、特にグローバル教育としての多様な現場体験や学生交流が生む可能性を示した。次の段階として、今後の研究において「現場型グローバル人材育成」による大学のESD構築を目指すことを計画している。
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