研究課題/領域番号 |
25560079
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
石原 諭 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 准教授 (60263414)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 物理教育 / 電磁気 / 変位電流 / 重ね合わせの原理 / 電荷保存則 |
研究概要 |
物理教育のなかで変位電流(電束密度の時間変化率)が磁場を作るかについていろいろな観点から論争が行われている。特に論争の焦点には変位電流の思考実験モデルがある。本研究では、この思考実験モデルについて科学的な手法で理論的な側面から解明することを目指した。 「変位電流は磁場を作らない」とする2012年の先行研究を踏まえて、研究を進めた。先行研究を検討すると、半直線電流の作る磁場を伝導電流由来の部分と変位電流由来の部分に分けて解析している。そして電磁場の対称性にもとづいた抽象的な議論により、変位電流の作る磁場は0と結論している。しかし具体的な電磁場の解は導出していない。 そこに問題点を見いだし、以下の事を明かにした。(1)上の「分ける」とうい解析の妥当性について、Maxwell方程式にもとづいて一般的に考察した。「分ける」ことが成立するためには、電磁気学において重ね合わせの原理が成立する必要がある。そして重ね合わせの原理が成立するには、電荷保存則を満たす必要がある。電荷保存則を満たさないときは、電磁場の解が存在しないため、「分ける」という解析が成立していないことを示した。(2)具体例として一直線上を流れる定常電流を分割した場合の解を構成し、重ね合わせの原理と電荷保存則の役割を確認した。(3)先行研究の半直線電流のモデルでは、電荷保存則を満たさないような分割をしているため、電磁場の解は存在しない。つまり変位電流の磁場は0との結論は証明されていないことを示した。(4)この議論は遠隔作用および近接作用のどちらの立場でも成立している。 以上を学会で発表し、論文にまとめた。この研究は古典的な電磁気学のみを用いた初等的な考察であり、高等学校および大学初年級の物理教育に資することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「半直線電流と電荷」のモデルについての理論研究は、先行研究にある問題の所在を明らかにし、新たな結果を導いたので、順調に進展している。一方で教科書等の文献の調査は、研究協力者の大学院生1名が得られず資料の整理と分析が進んでいないため、やや遅れている。両者を考慮しておおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
以下のように進める予定である。(1)昨年度の成果発表後も半直線電流のモデルを巡って論争が続いている。半直線電流のモデルについてもより明解な方法論がないか研究を継続する。(2)1960年代からあった先行研究についても解析に取り組む。そこで用いられている思考実験モデルの妥当性や近似が適切かを解明し、変位電流の役割を明確にしていく。 方法としては初年度と同じく古典電磁気学にもとづいて理論的に解析を進めていく。なお今年度(5月段階)も研究協力者が得られていないため、文献調査よりも理論研究を優先して進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
以下の理由による。(1)研究協力者が得られなかったことにより、文献収集が少なかったこと、および文献調査のための出張がなかった。(2)研究成果投稿料を本研究費以外から支出した。 以下の使用を予定している。(1)設備備品は物理教育関係の資料として、主に大学向けの電磁気に関する図書、科学教育関係の図書、高等学校の教科書・指導書を購入する。(2)旅費として、物理教育学会および物理学会への旅費および基礎物理学研究所への文献調査旅費を予定している。(3)その他として文献複写および投稿料を予定している。
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