研究実績の概要 |
本年度は,研究計画に沿って,「二度の海外調査」「Web意識調査」を主に実施した. 「海外調査」については,4月に全米科学教育協議会年会に参加し,「科学教育の規範見直し」に関連する最新の研究動向を調査し,主要な発表者と具体的な意見交換を行い,いくつかの新概念に接し考察を深める手がかりを得た.5月にワイカト大学を訪問し,「未来志向の科学教育」の研究について,理念・背景,実践状況について知見を得,私立高校で生命倫理を扱った授業実践を見学し,研究者,教師と実践上の問題点等について意見交換を行った. 「Web意識調査」(「近未来社会での科学技術との共存に関する意識調査」)は,前年度の研究で「近未来社会として日本人はどのような規範的社会を標榜しているのか」を知る必要性があったために,15歳から88歳までの1500名(年齢区分別人口比率で割り付け,男女比1:1に設定)を対象に実施した.主な知見として,「15年後に最もそうあってほしい理想のコミュニティの社会的意思決定の在り方」について,日本人の志向性は,特定の一つの社会的意思決定カテゴリーに集約されるのではなく,5つのカテゴリーに大きくばらつくことがわかった.従来の科学教育の暗黙の目標「すべての市民が一定の科学技術リテラシーを備えて,個々人が合理的な意思決定を行う」というコミュニティの姿が理想像として共有されていないのである.このことは,現在の科学教育の依って立つ旧来の価値規範群の見直しを要求するものである.本研究成果の一部は,日本科学教育学会の第38回年会(埼玉)の一般発表と,The 2nd International History, Philosophy and Science Teaching, Asian Region Conference (Taipei)での招待講演として発表した.
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