「予防倫理」を中心とするこれまでの技術者倫理から、技術者が為すべきことを強調する「志向倫理」に基づく、新しい技術者倫理の基本原則とその教育方法を提案した。特に、技術者倫理の第一原則として広く認められている「公衆の安全・健康・福利(well-being)の最優先」において、「well-being」に関する検討がなされてこなかったことを指摘したうえで、well-beingに関する脳神経科学やポジティブ心理学などの最新の科学的知見を整理し、公衆のwell-beingへの貢献が、技術者個人の主観的well-beingの向上につながることを示した。(このような新しい技術者倫理を、以下では「技術者倫理2.0」とする。) また、技術者の為した善い行為、すなわち、専門的能力を使ってwell-beingに貢献した「よい仕事(Good Work)」の事例を収集し、教材として提示できる形で整理したうえで、技術者倫理2.0の教育内容と手法を考案し、複数の教育機関(東京工業大学、金沢工業大学など)で実施した。 加えて、M. Seligmanの提唱する理論に基づいて開発されたwell-beingを測定するための尺度であるPERMA Profilerの日本語化を行い、技術者倫理2.0の教育が、学生の主観的well-being、および人生満足度に与える影響について測定し、その向上につながることを検証した。 最終年度においては、技術者倫理2.0の教育内容を再検討し、特に、well-beingと創造性及び生産性に関する研究成果を盛り込むことにより、学生に対する教育だけではなく、企業などでの研修に活用できる形に改善・充実させた。
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