本研究の目的は、博物館での学習場面で展示コンテンツを効果的に提示するために、拡張現実感を利用した提示手法を構築することである。当該年度は、現実空間と仮想物体の幾何学的整合性において博物館展示に適したやり方でカメラの位置姿勢の推定を行った。カメラ映像を用いたビジュアルトラッキングとして自然特徴点群を抽出する方法と三次元位置計測による方法を組み合わせたシステムを採用してきた。展示物に展示と関係のないマーカを付与することは学習の妨げになると考え、マーカレスでカメラの位置姿勢推定を行ってきたが、来館者にとってはそこに情報が埋め込まれていることに気がつきにくい。そこで、元々展示環境に付いている展示説明板や番号プレート等を利用することにより景観を壊すことなく、仮想物体の現実空間への重畳提示に対するトリガにすることができる。また、元々展示環境に備え付けられたものをパターンとして登録することになるため、仮想物体の初期位置およびスケールの設定に使うことができる。さらに、これを応用することにより予め登録したパターンを使って任意の位置に仮想物体を配置し、現実空間に重畳提示した後にこのパターンを取り除くといったこともできる。本システムを科学館での実際の展示に実装するため、具体的に古典的自動車の展示での利用を想定し、コンテンツに組み込むための素材の収集とコンテンツの作り込みを行った。外観と主な内部構造の3次元モデルを構築し、アニメーションに対応するための階層化を行った。コンテンツを拡張現実感提示システムに組み込むための機能を実装し、3次元モデルの位置や姿勢を調整する機能を付与した。
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