研究課題/領域番号 |
25560126
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐倉 統 東京大学, 大学院情報学環, 教授 (00251752)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 脳神経倫理 / 科学技術ガバナンス / 科学技術政策 / 質的研究 / 科学と政治 |
研究実績の概要 |
過去2年間の調査結果を踏まえて、カナダ第3の脳神経倫理の研究拠点であったダルハウジー大学(ハリファックス)の状況について聞き取り調査をおこなった。インタビューイーは、分野的には生命倫理学者、法学者、脳神経外科医など関連分野をカバーし、ポジションは教員と大学院生双方を対象とすることができたので、インタビュー調査としては網羅的な対象を選定し調査をデザインすることができた。ダルハウジー大学では現在は脳神経倫理のプロジェクトは終了しているが、後継プロジェクトの中心になっている研究者をインタビューイーとして選定し、情報を収集した。 カナダの脳神経倫理学が盛んな理由は、やはりトップダウン型の科科学技術政策と科学技術ガバナンスがうまく適切なタイミングで機能した点にあるという昨年度までの結果を支持する調査結果が得られた。ダルハウジー大学では脳神経倫理そのものはプロジェクトとしては終了しているが、その成果を活かして次のステップへの移行がスムーズにおこなわれており、カナダの大学の制度および運営の柔軟さには優れた点があると思われる。 一方で、カナダにおける近年の科学技術政策には批判的な声が多く聞かれ、現政権が科学研究の自由な活動に制約を課し、政治的思惑を優先しいていることも明らかになった。トップダウン型の科学技術政策運営は、当然トップの方針によって大きく左右されるため、功罪両面を検討する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヴァンクーヴァー(ブリティッシュコロンビア州)とモントリオール(ケベック州)における過去2年間の調査結果を踏まえて、カナダ第3の脳神経倫理の研究拠点であったダルハウジー大学(ハリファックス[ノヴァスコシア州])の状況について聞き取り調査をおこなうことができ、有意義な成果を得ることができた。インタビューイーは、分野的には生命倫理学者、法学者、脳神経外科医など関連分野をカバーし、ポジションは教員と大学院生双方を対象とすることができたので、インタビュー調査としては網羅的な対象を選定し調査をデザインすることができた。また、当初予定していた、脳神経倫理に関する科学技術政策の状況だけでなく、現政権の環境科学に対する政治的干渉を始めとする研究の自由を阻害する科学技術ガバナンスについても知見を得ることができ、調査研究のスコープを広げることができた。 一方で、CIHR事務局には調査を申し入れたが反応がなく、インタビューができなかった。CIHRのガバナンス方針の変更と関係があるのかもしれない。
|
今後の研究の推進方策 |
今まで、カナダにおける科学技術政策、とくに脳神経倫理の振興について、代表的な研究拠点を対象に着実に実態調査を進めることができている。この成果を踏まえ、トップダウン型ガバナンスの成功例として位置づけ、まとめの作業を以下の3点を中心におこなう。 第一に、脳神経倫理のもっとも成果を上げているブリティッシュコロンビア大学の研究拠点の状況を再度調査し、一昨年度の状況を再確認すると同時に、経年変化を確認する。同時に、ここまでの知見を同大学の研究者と共に検討し、評価についての意見を求める。 第二に、昨年度のハリファックス調査から明らかになった、現政権の科学技術政策の問題点を、文献調査や聞き取り調査をさらにおこない、カナダの科学技術政策をより立体的に捉えていく。 第三に、成果をすみやかにまとめ、学会発表と論文化に向けて作業を進めると同時に、日本の科学技術政策への提言をおこなう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
カナダの医療生命科学の予算配分をおこなっているカナダ保健衛生機構(CIHR)の事務局(オタワ[オンタリオ州])への聞き取り調査を予定していたが、先方から調査許可がおりず、実施できなかったため、旅費・滞在費・調査謝金が未使用となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
再度CIHR事務局への聞き取り調査を試みるが、許可が得られなかった場合はヴァンクーヴァー聞き取り調査の期間を延ばし、現政権の科学技術政策全般への情報収集をおこなう。
|