研究課題/領域番号 |
25560139
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
樋口 智寛 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 事業化支援本部地域技術支援部城東支所, 副主任研究員 (50463063)
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研究分担者 |
二宮 修治 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (30107718)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 陶磁器 / TOF-SIMS / 有機物 |
研究概要 |
陶磁器の絵付けに使用する絵具等の有機物に注目し、これらに近年発展した表面分析手法の応用を試み、陶磁器における分析法確立を最終目的とした。1年目はモデル試料作製による試料の洗浄等の前処理を主とし、手法確立を目指した。 ガラス板を釉薬部と模して、上絵付けのモデルを作製し、分析試料作製法や評価法等の基本的な実験法を探索した。並行し、膠や上絵具といった絵付けの原料の飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)などによる分析や、焼成後の有機成分についてもあわせて分析を進めた。実際の文化財や埋蔵発掘物の釉薬・絵具界面付近の有機物分析のための洗浄用として、非破壊での洗浄が可能なUV/O3洗浄機を導入し、その可能性を探索し、基本的な洗浄条件を得た。 作製した上絵付けのモデル試料に対し、UV/O3洗浄を行い、TOF-SIMSにより分析したところ、上絵層に有機物が優位に存在していることが確認された。このことから、UV/O3洗浄の妥当性が示され、また上絵付けの焼成後にも、有機物全てが焼失または炭化されることなく、一部は残存していることが明らかとなった。しかし、今回絵付けに用いた膠のタンパク質特有の含窒素化合物については、有機物自体の強度が低いこともあり、TOF-SIMSスペクトルからも明確に存在を特定できなかった。また、同一試料において有機物が検出されない上絵層の領域が存在したことや、焼成条件により残留する有機物に差異が現れた。これらから、焼成時の熱伝導や上絵層の厚さ等、陶磁器の各種製作条件による差異が、残存有機物の量や成分にも現れると推定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上絵付けのモデル試料を用い、有機物の分析前の洗浄法などを探索した結果、上絵層において残存した有機物を、表面数nmオーダーのみの分析に特化した表面高感度なTOF-SIMSにて検出可能なまでに至った。洗浄法の妥当性はもとより、焼成後の陶磁器においても上絵層に有機物が残存している可能性があるという画期的な成果が得られたことから、1年目の目標をおおむね達成したと判断した。得られた成果は、26年度の日本文化財科学会にて発表予定である。また本研究を今後遂行する上での重要な事項である実試料についても、陶磁器の埋蔵物を入手する目途がたったことも評価に値する。 本研究から派生した成果として、上絵付けに用いられる膠などの材料を分析した結果、特に有機物については、今後の文化財修復などの分野において有益となるような知見がTOF-SIMS分析により得られた。この成果は、26年度の文化財保存修復学会にて発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降は、当初の計画通り、実際の陶磁器を試料として分析を可能とする洗浄手法についての検討を続けていく。1年目のモデル試料では、原料成分が限られており、また上絵付けを行うガラス板も数mmと十分な厚さがあった。しかし、実際の陶磁器では上絵の下地となる釉薬層がサブmmと薄く、また平滑ではなく、さらには釉薬層におけるピンホールの存在などで、胎土層からの影響も考慮する必要がある。必要により乾式の他、湿式洗浄による方法も検討する。分析対象の有機物を流出せさずに保持させることが可能かなどの課題もある。湿式洗浄については、洗浄時間や、溶解度の差異を考慮した溶媒の選定などに解決を試みる。またこれら洗浄を補助する方法として、統計処理などのデータ解析法の導入を検討していく。 また、陶磁器の製作現場における技法などの調査も進め、本研究において得られた分析結果などとの関連付けも見据えたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
陶磁器産地などの現地調査を調査先との関係から次年度実施としたため、旅費やその他諸経費の繰り越しが発生した。 東海や九州などの陶磁器産地における現地調査を実施する。これらから得られる情報を基に、当初計画した通りに今後必要となる陶磁器の試料などを翌年度分助成金にて購入する。また成果発表の旅費として使用する。
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