研究課題/領域番号 |
25560151
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
藤正 巖 政策研究大学院大学, 政策研究科, 名誉教授 (30010028)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 確定制御 / 政策科学 / 社会構造学 / 社会変動 / 4次元空間 / 経済政策 / 市区町村地図 / クラウドワークショップ |
研究実績の概要 |
本年度は、第一年度(平成25年度)の結果に基づき、確定的制御手法で推計した社会構造を表現する手法を開発した。その基本構造は住民の生活する基本行政空間を、日本については「市区町村」単位とし、世界では「国連の構成国」単位として、地図上に表現する手法を開発することを目標とした。このために、まず国土地理院の発行による地図画像「数値地図200000」を使用し、都道府県単位で、全市区町村のある時点での社会構造と経済機能分布を表現する手法を開発した。応用ソフトウエアはApple Scriptを使用した。政策研究大学院大学の「極大値後の社会構造研究ネットワーク(PMN)」のネットワークワークショップで使用するパーソナルコンピュータ(PC)では、全日本の市区町村を一覧できるようなディスプレイは存在しないため、地域を6道+沖縄県の7枚の地図とし、4台のディスプレイを2基のPCを使い表示し、ワークショップ参加者のPCを制御装置として、その各部の動態を拡大して見ることができるようなシステムを開発した。詳細はPMNのホームページifuji122に解説してあり、地図化した2010年の国勢調査の社会構造関連データを見ることが可能となった。 ついで、政策の導入により目標とする各種の社会変量や経済変量を達成する時間を変えた場合、何が確定的なパラメータとなるかを知るために、幾つかの都道府県の国勢調査2000年と2005年のデータから推計された2010年のデータを用い分析を行い始めた。さらに今後急速に高齢化が進むと思われる2025年へ向けて、2015年の国勢調査によるデータが得られ次第、人口構造の人間生物学的特性と、人の経済社会を変化させる政策の社会移動率への影響を分析し確定論モデルに投入して、将来の社会政策決定の指標にすべく、準備を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全市区町村を描記した地図によれば、この研究の学術的な立脚点として取り上げた、高齢化・人口減少が、今日から将来にわたる成熟社会形成のために対して立てられる最も確定的な要素であることは明らかである。高齢化率が30%をこえた市区町村はいずれも人口減少率が高いことが、全市町村社会構造地図を一瞥すればよくわかる。一方、人口の社会移動だけが社会構造を変えうる要素だが、2005年から2010年の間で人口増加が起こった市区町村分布と、15~65歳の生産年齢人口割合が65%以上のそれの間には大きな類似性があることが判った。産業の集積が人口の吸引力となっているのは確実である。もし生産年齢人口の増加を移民や外国人労働者に頼ったとしても、その大半は産業集積の大きな所に集まるのは世界のどこでも起こっていることである。出生力の回復に頼ったとしても、人口減少を止めるには25年の遅れがある。しかも、多くの研究者の指摘と異なり、年少人口割合の高い市区町村は極めて分散的である、等々の現象が地図で一覧できる。新聞等での政策提言に対する批判は、極めて人口移動の活発な日本では、地図という画像認識で提言されるのが必要だと思われる。これこそがこの研究の独創的な部分である。 現在、全市区町村の社会構造と機能に関する地図表現のデータは刻々と増加しつつある。これに政策関数をかけ、特に確実に生来する未来の姿を地図として表現するのは、本研究の使命でもあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本手法は2000年および2005年の国勢調査によって作られた本研究者の作った全市区町村の推計結果を、2010年の国勢調査による社会構造と経済的機能にリンクさせ、分析するという手法を用いる。これに加えて、さらに2010年のデータによる推計を、2015年の国勢調査の結果と比較し、その間に成り立つ確定制御系のモデルを完成させる予定でもある。このためには、確実に人口減少が起こり始めた2010年以降のデータによる社会構造推計が必要となり、2015年の国勢調査の結果の得られる平成28年度まで、本研究の実施期間延長を願い出る予定とし、予算使用計画を見直しているところである。 一方、日本に於ける本研究の結果を使い、国連およびWHOの最新のセンサスと人口動態データを使用し、世界及び世界諸国にも適用させ、その問題点を探索し改良する。既に東アジアのモデルは完成し、世界諸国地図は入手中である。この推計を行う理由は、多くの経済学者や長期経済計画に携わる行政官達が、グローバルに拡大した経済により、未だに世界経済は成長するものと誤解しているのに、一つの反論を試みるためである。 日本は既に、人類社会は間もなく、成熟社会に到し、社会の高齢化と人口減少は、どの国でも近い未来にあり、これまでにない社会経済政策の立案が必要となることを指摘したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究費の使用内訳は、その殆どが日本の全市区町村の地図表示システムのハードウエアを作ることに費やされた、そのシステムは、4場面の日本全市町村や世界諸国の地図を表示でき、それが外部のPCによりコントロールされうることにあった。このシステムは大型ディスプレイを持つ3機の新規のコンピュータを購入することにより製作される予定であったが、Mac コンピュータの技術進歩と、他のプロジェクトによって使用された4機の大型ディスプレイの転用により、そのシステムは極めて安価に製作された。 同時に、この結果を表示し、一般に使用できるようなシステムも、Googleのホームページシステムの登場により、クラウドコンピュータの機能が無料で使用できるようになった。このため生じた余剰の研究費は、次年度以降の新しい社会構造推計のマンパワーの雇用に使用される予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
余剰資金の最大の利用目的は、2015年度に行われる国勢調査と、最新の国連人口統計とWHO人口動態統計の入手に費やされる。本研究の最も重要な視点は、日本が世界最初の人口減少を伴った成熟社会の形成可能な国であることを明示し、そのための理論的素地を作ることにあると考えている。 このためには、2015年国勢調査の結果が明らかになる2016年(平成28年度)まで研究の期間を延長することが最も良い解決法であると考えている。過去本研究者が蓄えて来た多くの推計結果が、ここに統合され、確定制御論の完成が見られるよう、努力する予定である。
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備考 |
本研究のホームページは、従来より行われてきた「極大値後の社会研究ネットワークワークショップ(PMN Workshop: Post-max Network Workshop)」の一環として、そのホームページのifuji122を仲介として討論を行うべく準備されたものである。その内容は討論により絶えず改変され、誰でも読みうる公開ファイルとして提供されている。
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