今年度は,創造的会議の具体的な状況設定として,様々な変動要因が生じ得る中でサプライチェーンを,チェーンを構成する複数の拠点の担当者が問題発見と問題解決を通じて協働的運用している状況を取り上げた.ただし,実際のサプライチェーンを対象にしたデータ取得は難しいため,それを模擬したシリアスゲーム(Collaborative Production Management: ColPMan)を用いた参加型シミュレーションを行い,その際の発話をデータ化し,プロトコル分析を行った.ここに,プロトコル分析とは,会議中の発話をデータとして書き起こし,それにタグを付与した上で,参加者全員による集合的な思考プロセスをタグの比率や時系列として分析していくものである.本研究では,知識生産の工程面と作業面の二つの面から思考プロセスのプロトコル分析を行う.今年度のモデルでは,工程要素として,議論の軸となる「問題」と「解決策」の2つを設定する.さらに,問題と解決策を,それぞれ「現在属性」と「未来属性」に分け,工程要素をあわせて4種類に分類した.作業要素は,それらの工程要素の新規導入や,評価,修正,具体化,詳細化などである.さらに,知識生産の流れを可視化するために,問題軸と解決策軸の2軸で表されるマップを提案した.そこに,工程要素を種類ごとに異なる形状のノードで描き,問題から解決策を提示する発話関係や,問題や解決策の議論の中から新たに問題が想起されるような発話関係を矢印で表す.提案法に基づく分析で,ゲームを重ねるほど議論空間が広がる傾向にあること,ゲームを重ねることで,過去のゲームの経験を活かし,定着した解決策で問題の対処にあたっていたこと,しかし非定常的な変動が生じると場合,再び活発に問題発見や問題解決に取り組んでいたこと,などが明確になり,提案法が分析の切り口として有効であることが示された.
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