研究概要 |
災害時,避難誘導員の役割はきわめて大きい.しかし,多くの場合,避難訓練のように事前に誘導員か配置されているわけてはない.本研究の目的は,パニックのような極限環境下における群集から,危険回避のため自発的に誘導員(リーダー)が出現するかどうかを明らかにすることである.本研究では,分子動力学に自律的な意思決定の要素を考慮したマルチエージェントモデルに基づく社会シミュレーションによって,この問題にチャレンジした. 本年度はまず,リーダー誕生の舞台となる極限環境下におけるパニック現象を,物理現象で知られているクラスター形成という立場からその発生機構を明らかにした. 基本的には,クラスターの形成による出口の発見確率の増加(脱出に有利)とクラスター化による出口での渋滞(脱出に不利)の競合がおこる.最大避難効率は,最適なクラスターサイズが決定され,そのもとで脱出速度が最大となる時であることがわかった.そして,そのクラスター化の背景には,個人の依存度が重要な因子で,クラスターの大きさだけでなく硬さを決めていることを明らかにした.さらに,避難時,このクラスターがあたかも一人の避難者のように振る舞うことも見いだした.このクラスターの意思決定は,避難行動を大きく支配することから,個人の意思がいかにしてクラスターの意思決定に反映されるのかを調べた.まだ途中段階であるが,基本的には多数決論理に従うことを示唆する結果を得ている.
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