研究課題/領域番号 |
25560167
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
木村 玲欧 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (00362301)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 防災教育 / 安全情報 / 竜巻災害 / 緊急地震速報 / 生きる力 / 指導案 / 災害心理 / 災害対応行動 |
研究実績の概要 |
本研究は、「特殊な学校(防災教育先進校)」を除いて、これまで「総合的な学習の時間」での1~数時限を単元とする1テーマや、防災訓練・避難訓練・消火訓練などの「単発のイベント」としてしか扱われなかった小中学校の義務教育現場における「防災教育」について、防災学の立場から心理学・教育学の学習理論・技法を用い、防災専門家の介入なしに教科学習の中で体系的に学ぶような「単元構想図(カリキュラム)・指導案(1時限の授業進行案)」を提案する。 本年度は、南海トラフ巨大地震・津波の危険性が高い高知県、歴史災害が少なく災害に対する意識が低い岡山県などの各学校の現場教員・児童・生徒へのヒアリング調査によって学習すべき能力(コンピテンシー)と課題を明らかにした。特に、2013年9月2日の埼玉県竜巻災害において人的・建物被害が発生した埼玉県越谷市の小中学校へのヒアリング調査によって、竜巻に関する防災教育が具体的なカリキュラムによって実施されていなかったことを明らかにし、竜巻被災地の児童生徒を対象に竜巻発生時の心理・行動状態を把握する質問紙調査を実施し、竜巻の予兆現象や竜巻が接近したときの対応行動などの実態を明らかにした。 さらに質問紙調査によって解明された児童生徒の心理・行動状態をもとに、竜巻に関する効果的な防災教育のあり方について提案を行った。被災地の心情に配慮をし、大きな被害が発生しなかった埼玉県熊谷市の小学校の協力を得て、竜巻防災教育プログラムを開発・検証し、児童にどのような対応行動の向上が見られたかについての効果測定も行った。また本学校は昨年度開発をした「緊急地震速報を利用した教育プログラム」に関係する実践校であり、緊急地震速報という別のハザードを対象にした訓練の教育効果が、竜巻から身を守る対応行動に援用できるかどうかについても検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画にあった、当事者(教職員・児童生徒)の生の声を収集した上で、「竜巻による学校被害・児童生徒への人的被害」という従来の防災教育では手薄だった分野に焦点をあてて、被災地における質問紙調査を行い、児童生徒の竜巻対応における実態と課題を明らかにした。その上で、学習すべき能力(コンピテンシー)を同定し、そのための教育プログラムを策定した。さらに竜巻被災校(被害小)における実践・検証によって教育プログラムの検証をした上で、さらに他のハザードである「緊急地震速報による対応訓練」の効果が波及しているかどうかについても検証したことは大きな成果である。 ただし、竜巻教育プログラム開発に時間がかかり、複数の学校への適用・検証にまで結びつけることができなかったこと、被災者心情から人的・建物被害の大きな学校の適用に至らなかったことなど、残された課題もあるために、これらについては次年度以降の課題として解決していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、現場教員・児童生徒の声を広く収集するとともに、教育学の教育方法・技術論をもとに学習目標を単元構想図・指導案等として体系化・整備し、インストラクショナル・デザイン理論のADDIE(アディー)理論の考え方で現場実践における効果測定・評価を行い単元構想図・指導案等を改訂していく。特に前年度に開発した竜巻教育プログラムの適用可能性について、複数の学校で実施することによって教育プログラムを完成させ、またその過程では複数の学校に対する大規模効果測定を行いたい。また地震と気象災害という異なった災害に対する教育プログラムが、他の教育プログラムへどのような波及効果が発生するかについても考察したい。教育現場で授業を行うためには、教育素材だけではなく、単元構想図(数~数十時限を1単元としたカリキュラム)と指導案(1時限を指導するための学習目標や教員から児童生徒への発問と援助などの授業進行をまとめたもの)の整備が必要である。防災教育に多くの時間を割くことができない現状を鑑み、各災害による別個の教育プログラムがどうしても必要であるのか、それともすべての災害に共通する教育プログラムの整備が可能であるのかについても考察を行いたい。 本研究はADDIE理論によって、分析→設計→開発→実施→評価の5段階におけるプロセスモデルによって、教育プログラム開発を進めていくものである。特に、防災研究者から現場教員への一方的な提供、防災研究者の介入によってしか成り立たないイベント的な授業にならないように、防災教育実践を行う学校において単元構想図・指導案・教材を利用してもらい、質問紙を用いた学習者への効果測定・評価によって改善・改訂することで、最終的な単元構想図・指導案・教材を開発していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「生きる力」を高めるための防災教育について、現場教員・児童・生徒へのヒアリング調査によって学習すべき能力(コンピテンシー)と課題を明らかにするために、2011年東日本大震災の被災地における教職員・児童・生徒へのヒアリング調査などを予定していた。しかし、震災から4年目の時点において、復旧・復興が計画・想定よりも進んでおらず、人々の生活再建も未だ遠い状態で、防災教育のための教訓を明らかにするためのヒアリング調査の実施は難しいと判断をした。そのため旅費や謝金などを中心にして未執行のものが発生した。それにあわせて成果投稿のための論文投稿料が一部不要になったために次年度使用額が発生した。また海外での防災教育先進事例の収集・議論(地震多発地帯のカリフォルニアを予定)について、先方の都合で来年度になったために海外旅費を次年度使用することとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、防災において学習すべき能力(コンピテンシー)を明らかにして、学習要素の体系化を図るために、東日本大震災や各被災地をはじめ、防災先進地域での事例についても積極的に収集するための旅費として使用する計画である。また能力向上のための教育プログラム・学習教材作成のための材料費、成果に関する論文投稿料などについて、使用する計画である。さらに先方の希望によって延期となった海外(地震多発地帯のカリフォルニアを予定)における防災教育先進事例調査も実施する計画である。これらは執行年度は違うものの、当初計画に則した使用用途である。
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