研究課題/領域番号 |
25560175
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
福地 龍郎 山梨大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (90212183)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 活断層 / 古地震 / 断層岩 / 電子スピン共鳴 / ESR |
研究概要 |
平成25年度は,南アルプス東縁の糸魚川-静岡構造線(糸静線)の断層露頭調査を実施し,採取した断層岩を用いて断層摩擦熱によるESR信号のリセット状態の検討,加熱実験による各ESR信号の消滅過程の解明,ESR年代測定を行った。重点調査対象とした下円井断層では,研究目的の一つである地表付近でESR信号がリセットされるまで摩擦熱が上昇するかどうかの検証を最もリセットされ易い石英起源のAl中心及びTi中心を用いて行った結果,地表付近ではESR信号のリセットは実現しないことを確認した。また,下円井断層面に注入している黒色脈状岩は最新断層活動時に650℃程度の断層摩擦熱で形成されたと推定されていたが,摩擦熱温度の上昇は200~250℃程度であることが判明した。 鳳凰山断層では,最新断層面上の灰色断層ガウジが過去の断層活動時に著しく高い摩擦熱を受けていることをFMR(フェリ磁性共鳴)信号及び有機ラジカル信号を用いて確認した。また,灰色断層ガウジのモンモリロナイト四重信号から得られたESR年代値(1.4~1.9±0.2 Ma)は灰色断層ガウジを構成する粘土鉱物の生成温度(110~200℃)から見積もられる年代(1.8~3.3 Ma)と一致した。これまで鳳凰山断層から南方に位置する糸静線は活断層として認定されておらず,今回,鳳凰山断層から第四紀を示す信頼性の高い年代値が初めて得られた意義は大きいと考えられる。 台湾チェルンプ断層深部掘削コア試料を用いた検証実験では,黒色断層岩中の有機ラジカル信号の強度分布から断層摩擦熱の分布状態を明らかにした。また,有機ラジカル信号の加熱による挙動を加熱実験で明らかにすると共に,モンモリロナイトの四重信号が断層活動時においてほぼ完全にリセットされたことを確認した。さらに,野島断層帯に発達する黒色脈状岩を用いて,FMR信号から断層摩擦熱の温度範囲や断層帯の酸化・還元状態を判定するESRスペクトル解析法を新たに開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は,南アルプス東縁の糸静線の断層露頭調査を実施してESR解析及び年代測定に使用する断層岩試料を採取すること,及び摩擦熱エネルギーとマグニチュードの関係式の有効性を判定するために台湾チェルンプ断層深部掘削コア試料を用いた検証実験を実施することを研究目的とした。糸静線の断層露頭調査では,重点調査対象である下円井断層をはじめ,下円井断層と同じ活断層系に属する鳳凰山断層及び相又川上流に位置する地質構造線としての糸静線から断層摩擦熱により黒色化した黒色脈状岩を含む断層岩試料を採取することができた。下円井断層及び鳳凰山断層では,採取した断層岩を用いて断層摩擦熱によるESR信号のリセット状態の検討,加熱実験による各ESR信号の消滅過程の解明,ESR年代測定を実施し,平成26年度に実施予定であった研究項目を実施することができた。また,本研究の最終目的である糸静線の断層岩から年代とマグニチュードを同時に決定する手法を確立するための道筋を立てることができた。一方,台湾チェルンプ断層深部掘削コア試料を用いた検証実験では,有機ラジカル信号の熱的挙動を加熱実験により明らかにし,黒色断層岩における有機ラジカル信号の一次元及び二次元強度分布を走査型ESR顕微鏡を用いて計測すると共に,モンモリロナイトの四重信号がγ線照射により増大することを確認したが,黒色断層岩を用いたESR年代測定は完了しておらず,また加熱実験結果から有機ラジカル信号の化学反応速度式を作成する作業も途中の段階にある。糸静線の断層露頭調査では当初の予定を上回る結果を得ることができた反面,台湾チェルンプ断層深部掘削コア試料を用いた検証実験では当初の予定より少し遅れていることから,現在までの達成度をおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度以降は,鳳凰山断層の南方延長部に当たる早川や大城川沿いで確認されている地質断層としての糸静線の断層露頭から断層岩試料の採取を行う。これらの断層岩試料に加えて,前年度に相又川上流から採取した断層岩試料を用いて,断層摩擦熱によるESR信号のリセット状態の検討,加熱実験による各ESR信号の消滅過程の解明,ESR年代測定を実施する。得られたESR年代値と本地域で観測されている平均隆起速度を元に,各断層露頭における断層岩の形成深度を算出する。その後,各断層岩の表面研磨試料を作成し,走査型ESR顕微鏡を使用してFMR信号あるいは有機ラジカル信号を検出し,断層摩擦熱の一次元及び二次元分布マップを作成する。加熱実験によりFMR信号及び有機ラジカル信号の化学反応速度式を求め,摩擦発熱に関する一次元熱伝導方程式を組み合わせて,摩擦熱エネルギーをコンピュータによるインバージョン計算で算出する。摩擦熱エネルギーを形成深度で規格化し,震源の深さを南アルプス地域の震源分布に基づいて設定して各断層の平均摩擦熱エネルギーを計算する。糸静線の研究と並行して,台湾チェルンプ断層深部掘削コア試料についてもESR解析及び年代測定を実施して平均摩擦熱エネルギーを算出する。野島断層から求められた平均摩擦熱エネルギーEhとモーメントマグニチュードMwの関係式(log Eh = 1.5 Mw + c,c: 定数項)に基づいて,糸静線及び台湾チェルンプ断層のMwを算出する。算出したMwをトレンチ調査や地震波解析によって見積もられている推定値(あるいは実測値)と比較検討し,結果が一致しない場合にはその原因について考察し,関係式の定数項を修正する等の改良を行う。最後に,南アルプス東縁の糸静線全体の活動性を再評価し,南アルプスの隆起運動と糸静線全体の活動の連動性について検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初,糸静線の断層調査のための旅費として,研究代表者及び研究協力者2名分を見込んでいたが,平成25年度に調査を実施した南アルプス北部の断層露頭の多くはアクセスが比較的容易な場所にあったため,特に宿泊をしなくても日帰りで行うことが可能であったことに加え,南アルプス中南部の一部断層露頭は非常にアクセスが困難で危険な場所にあり,研究協力者である学生2名も当初随行する予定であったが,現地予備調査の結果随行不可能であることが判明したため,研究代表者1名による旅費で済んだことが理由の一つである。また,断層岩試料の化学分析を独立行政法人の研究機関に所属する研究協力者に依頼するために謝金を当初見込んでいたが,研究協力者のご厚意で謝金が掛からなくて済んだことも理由の一つである。 平成26年度は,南アルプス中南部の急峻な地域の断層調査を主に行う計画であるので,平成26年度分予算に加えて次年度使用額の一部も断層調査のための旅費に当てる予定である。また,本研究遂行に当たって使用しているESR装置の部品に劣化が見られたので,装置の点検及び部品の交換のための費用として次年度使用額を当てる予定である。平成26年度分予算は,主にESR解析及び年代測定に必要なESR試料管や薬品類,ガラス器具等の消耗品に使用し,一部は断層調査や研究成果発表,研究打合せのための旅費の他,論文投稿などに使用する。また,前年度断層調査では,断層破砕帯から炭素14法年代測定に使用できる炭質物を抽出したので,年代測定業者に炭素14法年代測定を依頼する予定である。さらに,これまでの測定データや結果を解析するために必要なパーソナルコンピュータの購入を計画している。
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