本研究の目的は、渦力学的視点(特にラセン状の渦線などに着目する視点)から火災旋風のメカニズム解明を試みることである。1年目は、火災旋風現象を数値流体力学(CFD)的に再現し、2 年目と3年目は、得られた数値データを可視化・解析することにより、「渦糸ソリトンによる高速火炎伝播機構」という渦力学的メカニズムが巨大な火災旋風にも成り立っているかどうかを検証した。2年目に行った2通りの研究手法、すなわち、自作ソフトウェア(乱流モデルなし)による実験室スケール火災旋風モデルの数値シミュレーションと、市販ソフトウェア(乱流モデルとして圧縮性LESモデル使用)による大スケール火災旋風モデルの数値シミュレーションのうち、3年目は前者から得られた数値データの可視化・解析をさらに進めた。その結果、火災旋風内部に内側のラセン状の渦線と外側のラセン状の渦線からなる2重構造が見出され、その2重構造の隙間領域に燃焼ガスの高速上昇流が存在することが分かった。このラセン状の渦線の2重構造は、トンネルや煙突の壁のような役割をして、燃焼ガスを細長い円筒領域内に閉じ込めながら地上から上空へ高速輸送しているように見え、竜巻のような形状の火災旋風の発生・維持のために本質的に重要な構造であるといえる。これにより、当初予想した「渦糸ソリトンによる高速火炎伝播機構」という渦力学的メカニズムと類似したメカニズムが火災旋風でも成り立っていることが確認された。ただし火災旋風では、渦糸ソリトンのような孤立波的・局所的なラセン状の渦線ではなく、連続的なラセン状の渦線が重要な役割を担う。以上のような従来にはない独創的な研究成果を得ることはできたが、発表は学会発表のみであり、雑誌論文発表まで行うことはできなかったため、本研究終了後も発表は続けていく予定である。将来、本研究成果が燃焼分野や防災・安全分野などで活かされることが期待される。
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