細胞遊走は組織や臓器の発達と恒常性の維持に関わる細胞の基本的な機能であり,かつ損傷治癒部位への血管新生や癌の転移など様々な疾患の発達やその治癒に関わる非常に重要なプロセスでもある.細胞遊走は細胞運動の一形態であり,細胞が周囲の組織・組織に対して力を発生することで遊走を実現させていることからその運動メカニズムを力学的に解明することは細胞の基本的機能を理解し,さらに細胞遊走性の制御を試みる上で極めて重要である.そこで本研究課題では,細胞遊走時における細胞の力学的挙動の詳細な解析が可能な革新的マイクロチャネルデバイスを開発することを目的とする. マイクロチャネルデバイスはポリジメチルシロキサン(PDMS)製のマイクロピラー(微小な弾性列柱,高さ8 micron,直径3 micron,中心間距離8 micron)を底面に実装し,遊走する細胞の牽引力をマイクロピラーのたわみによって計測するものである.さらに,本デバイスにより細胞遊走性に及ぼす細胞外物理環境の影響を併せて調べることが可能である.研究期間内に以下の成果を得た.細胞遊走性が力学的に評価できる革新的マイクロチャネルデバイスを開発し,細胞遊走の力学的メカニズムの一旦を明らかにすることができた.マイクロピラーの剛性を変化させたり,マイクロピラーの剛性に異方性を持たせることで細胞の遊走速度を変化させることができた.このように遊走に影響を及ぼすと考えられる局所的力学環境を正確に制御し,より詳細に細胞遊走と力学環境の関係をバイオメカニクスの観点から検討することができた.
|