研究課題/領域番号 |
25560191
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牛田 多加志 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50323522)
|
研究分担者 |
吉野 修 富山大学, その他の研究科, 准教授 (00466757)
廣田 泰 東京大学, 医学部附属病院, その他 (40598653)
岸田 晶夫 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 教授 (60224929)
古川 克子 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90343144)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 再生子宮 / 脱細胞化担体 / 超高静水圧 |
研究概要 |
再生医療は,ポリ乳酸に代表される生体内分解性高分子で生体組織の3次元構造を成形した後に細胞を播種後,生体内に移植し,生体および細胞の再生能によって,組織再生を実現する組織工学のコンセプトの基盤に発展した学門である.しかし,現実には材料の分解速度と組織再生能のバランスがとれない場合が多く,これまでに実現している組織再生の例はほとんどない.高次の複雑構造を有する組織の構築も困難を極めると同時に,さらに分解産物による免疫反応も無視することができず,生体内分解性高分子による組織工学的手法による複雑で大型な臓器の再生医療は実用化の目処すらたっていない.このような背景のもと,脱細胞化組織を用いた再生医療では,心臓,肺,腎臓,肝臓をはじめとする複雑な構造を有する組織の再生に実験動物で成功していると報告されていることから,臨床に最も近いアプローチであるとの期待が高まっている. 脱細胞化組織は生体組織の高次構造を人間の力では再現できない部分まで保存した形で医療応用できることから,近年,再生医療の分野で最も注目を集めているアプローチである.本研究グループの東京医歯大の岸田らは,600MPa以上の超高静水圧下では,細胞外マトリクスを変性させず,細胞を高効率に破壊して除去するプロセスを世界にさきがけて開発した.再生子宮用の担体として本研究では,超高静水圧と界面活性剤処理による脱細胞化子宮を作製し,モデルラットに移植したところ,構築した再生子宮が迅速かつ優れた組織構築能を保有していることを世界にさきがけて証明した(PLOS One, In press; 平成25年度再生医療学会,平成25年度日本機械学会バイオエンジなニアリング講演会発表,2014年7月世界バイオメカニクス学会で招待講演の予定).本研究を通じて,良好な妊孕性を保有する再生子宮の開発に成功したことを報告する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,共同研究チームの岸田が開発した超高静水圧装置による処理と,従来の脱細胞化手段である界面活性剤処理によって,脱細胞化担体を作製し,その再生子宮としての性能を,ラットをモデル臓器として評価した.超高静水圧または界面活性剤による脱細胞化処理により,ラット子宮から細胞除去が可能であることを,DNAの定量解析,組織切片による解析から明らかにした.さらに,細胞除去後の細胞外マトリクスの保存状況を,電子顕微鏡,タンパク質の定量解析によって調査したところ,いずれの処理によってもマトリクスが保持されており,特に超高静水圧処理サンプルのほうがより良好な状態にあることがわかった.電子顕微鏡によるコラーゲン線維の観察を行ったところ,超高静水圧および界面活性剤ともに変性部位の存在は認められず,そして超高静水圧のほうがよりコラーゲン線維の密度が処理前のサンプルに近い特性を有することがわかった.本再生子宮をラットの子宮の欠損部位に1か月移植し,組織の形態学的な観察およびマトリクス・DNA含有量の定量的な解析を行った.その結果,1か月の再生子宮の移植によって,子宮を構成する細胞からなる正常な組織に類似の3層構造が再生子宮を担体として再構築されることがわかった.界面活性剤と超高静水圧処理を比較すると,超高静水圧処理のほうが良好な生体内での組織構築能を有することがわかった.その後,妊娠の可能性を検証したところ,いずれの実験系においても,コントロール実験であるシャムモデルと同様の着床・妊娠状況を有することがわかった.以上の結果から,本研究では世界にさきがけて,脱細胞化子宮の再生に,実験動物モデルを用いて成功したことを証明した.
|
今後の研究の推進方策 |
ラット子宮欠損モデルを平成25年度に作製したので,このモデルを用いて,より迅速な生体内組織構築が可能か否か,今後,検証する.具体的には,ラットから子宮構築に貢献できる可能性をもつ細胞を超高静水圧または界面活性剤処理した脱細胞化子宮に播種し,生体内での組織構築能を定量的,組織学的に評価する.平成25年度は細胞を用いない系で移植後1か月で良好な組織構築能を証明した.平成26年度以降は細胞を脱細胞化担体に播種することによって,より迅速な組織誘導を目指す.最終的には,脱細胞化担体の移植治具も工学的な造形手法で開発することにより,再生子宮パッチのモデルを新規開発を目指す.
|