血管内皮細胞は,血管の内側に存在し,常に血流にさらされている細胞である.この血管内皮細胞は,血流による摩擦力であるせん断応力や,血管の伸展に伴う引っ張り応力などの力学的な刺激を常にうけている.血管創傷治癒や血管新生は,内皮細胞の移動と増殖によって行われ,せん断応力などの力学刺激によって促進されることが知られている.そして,この血管内皮細胞の移動過程では,Rho-kinaseのROCK2というタンパク質が関与していることが分かってきた.ROCK2は細胞内を移動する特殊なタンパク質であり,不活性な状態では細胞質内に存在するが,活性化(リン酸化)状態になると,細胞膜に移動することがウェスタンブロッティングなどの生化学的な手法で分かってきている.このROCK2の移動の特殊性が細胞の移動を決定する重要な鍵であると考え,本研究の発想にいたった.昨年度,ROCK2の可視化を試みたが非常に困難であったため,生化学カスケードの上位に存在するジアシルグリセロール(DAG)の可視化を試みた.GFPとPKCgamma由来のC1ドメインの融合タンパク質GFP-C1-PKCgamma-C1Aをウシ大動脈由来血管内皮細胞に導入し,DAGの分布変化を観察できる実験系を構築した.単一細胞につつき刺激を与え,その際の周辺細胞の細胞内DAGの分布変化を調査した.単一細胞へのつつき刺激はホウケイ酸ガラス電極で任意の細胞を突く方法を用いた.粗動ハンドルと油圧駆動の微動ハンドルを組み合わせたマイクロマニュピレータを用いて,先端径4μmのガラス電極をガラスベースディッシュ上の培養細胞に近づけ,任意の細胞をつつくことで傷を与えた.つつき刺激を与えたとき,刺激細胞では仮足での輝度上昇が観察された.このとき,多くの刺激細胞に隣接する細胞での輝度変化は観察されなかったが,隣接細胞の細胞膜で輝度上昇が数例観察された.
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