心筋梗塞や脳梗塞などの動脈血栓症は、動脈硬化性プラークが破綻し、そこに形成された血栓が血管内腔を塞ぐことで発症する。プラークの破綻には脂質に富んだプラーク被膜の破裂(プラーク破裂)と、平滑筋や細胞外基質に富んだプラークの表在性傷害(プラークびらん)が知られている。プラーク破裂の機序については、炎症による被膜の脆弱化が重要視されている。一方、プラークびらんの発生では、血行力学的因子がその一因として想定されているが、詳細は不明である。本研究はプラーク破綻を予測するシステムの構築を最終目標としており、家兎動脈硬化モデルにおいて、プラークびらん部位とコンピューターシミュレーション上での血行力学的因子の関連性を検討した。
・動物モデルでのプラーク破綻と血流の物理的要因の検討 家兎大腿動脈の動脈硬化性病変の狭窄によるプラークびらんを誘発し、びらんの分布とコンビューターシミュレーション上の、血行力学的因子(ずり応力、乱流エネルギー、血圧、圧勾配)を解析した。プラークびらんの広がりは、ずり応力、乱流エネルギー、圧勾配と正の相関が見られた。また、びらん発生部位と非発生部位で、ずり応力・乱流エネルギーを比較したところ、びらん発生部位で有意に高値であった。 以上の結果より、ブラークびらんの発生において、血行力学的因子が深く関与していることが示唆された。一方、プラークびらんにおける力学的因子に明瞭な閾値は見られず、細胞死関連の免疫染色での検討では、びらん周囲の残存内皮でアポトーシス関連タンパクの陽性所見がみられた。これらの所見から、プラークびらんが、単純な力学的負荷による構造破壊ではなく、力学的因子に対する生体応答としての側面を合わせ持つことが想定された。
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