血小板の凝集、粘着は、血小板表面に存在している多くの糖タンパクレセプターによって統御されている。損傷された血管壁では、血小板表面の糖タンパクGPIbα が高いせん断速度の基で、血漿中のVWF (von Willebrand Factor)と呼ばれるタンパクと結合して、粘着力を発生し、凝集・血栓形成となる。高いせん断応力が、GPIbαとVWFの立体構造変化を誘起すると考えられており、その結果として両者の結合を促進している。そこで、本研究では、VWFの分子レベルでの立体構造変化と粘着力のせん断速度依存性を明らかにするために、粘着力を原子間力顕微鏡によって直接測定して、粘着力発生に関して検討を行った。粘着力のヒストグラムから、ガウスフィットにより、単分子結合力は、52.0pNと求められた。さらにA2ドメインは、容易にアンフォルディング(伸長)する部分で、高せん断によりA2ドメインがアンフォルディングして、立体構造が変化し、VWFの分割となる場合がある。巨大なVWFは、適宜分割して、血液中に存在する。血流の剪断応力によりA2ドメインがアンフォルディングする状況を、原子間力顕微鏡で調べた結果、フォースカーブに複数のピークが生じる事が認められ、マルチピークのカーブを詳しく分析した。特に、ピーク間の距離が、72.4nmと求められ、アミノ酸の193個から形成されるVWFのA2ドメインの長さと一致した。このようにフォースカーブに複数のピークが現れる要因として、VWFA2ドメインのアンフォルディングが関わっている可能性が高い。光ピンセットによるA2ドメインのアンフォルディングが直接計測された例があるが、AFMによってアンフォルディングが計測された例は無い。本研究で得られた原子間力顕微鏡による結果によって、VWFの粘着力形成の分子メカニズムの一端を明らかにする事が出来た。
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