細胞の凍結保存法は細胞株の長期間維持および輸送において必須の技術であり,iPS細胞やES細胞の樹立によりその重要性はさらに増している.本研究では,インクジェット技術を用いて,細胞を1ナノリットル以下の微小液滴中に内包し,液体窒素を用いて瞬間凍結することで,凍結保護剤を用いずかつ氷の生成を抑えた全く新しい細胞凍結保存法の創出を目指した.まず,インクジェットヘッドから吐出された細胞を内包する液滴が,液体窒素で冷却されたガラスプレートに着滴し,瞬間的に凍結されるシステムを構築した.このシステムを用いて,サイズの異なる液滴に細胞を内包し,瞬間凍結することで,その生存率を評価した.マウス繊維芽細胞株3T3を用いて評価した結果,液滴サイズが小さくなるにつれて細胞の生存率が向上することを確認した.また,その様子を高速度カメラで観察し,約1msで液滴が凍結することを確認した.さらに,凍結保護作用があるとされている牛胎児血清の培養液中濃度を高めることで,本凍結法における生存率が向上することも確認できた.最終的に,本瞬間凍結法における生存率は20%程度であった.この生存率は,凍結保護剤を用いた従来法と比べると十分ではないが,液滴を究極的には細胞サイズまで微小にすることで,十分な生存率が得られることが示唆された.
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