最終年度は、前年度までに調製した末端のリン酸基を有する分岐型ポリエチレングリコールを用いて鉄イオンとの結合の可能性をモデル実験により確かめた。具体的には、まず、この材料を水に溶解させ、分画分子量が1000のセルロース製透析膜に封入した。これを一定濃度の鉄イオン(III)溶液に入れたビーカーに沈め、その外液から各時間ごとの一定量をサンプリングし、鉄イオン濃度をメタロアッセイキットにより定量した。その結果、急激な鉄イオンの減少が確認された。これは、透析膜外液の鉄イオンが透析膜を通じて内部に浸透し、リン酸基と結合したためであると考えられた。 近年、生体内に不安定に存在する余剰鉄イオンがガンをはじめ、パーキンソン病、アルツハイマー病、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの発症と極めて密接に関連していることが明らかとなっており、生体内の鉄貯蔵の役割を果たしているトランスフェリンとは結合していない生体不安定余剰鉄イオンのみを捕捉可能な新規生体適合性キレート剤の開発が求められていた。すなわち体内の余剰鉄のみを除去できれば、現在治療が困難なアルツハイマー病などの予防・治療法の開発にもつながり、医療の向上・人類の福祉の向上に大きく貢献できるものと考えられるわけである。 今回、鉄イオンの回収の可能性が示されたので、この材料を生体適合性が高い微粒子あるいは、中空糸などへ固定化させて通常の人工透析技術と組み合わせれば、効果的な余剰鉄イオン回収デバイスを構築できると考えられる。
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