研究課題/領域番号 |
25560244
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山川 宏 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00097263)
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研究分担者 |
宮下 朋之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20329080)
藤江 正克 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20339716)
小林 洋 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (50424817)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ラジオ波焼灼療法 / モデルベース制御 / 熱制御 / 温度分布シミュレーション / 手術支援 |
研究概要 |
近年,肝臓癌を対象として,ラジオ波焼灼療法(Radio Frequency Ablation:以下RFA)と呼ばれる癌の温熱療法が注目されている.RFAでは,電極針を肝臓癌へ刺し,電極針から電磁波を流すことで組織の水分を振動させ,振動により発生した摩擦熱を利用して癌組織を凝固・壊死させる治療法である.従来の肝切除術と同程度の根治性が得られ,かつ体内への侵襲が電極針一本のみの低侵襲な治療法である.しかし,課題点として,RFA術中に主に超音波画像のモノクロ画像を通じて治療を行うため,癌の加温状態が不鮮明となり,医師が術前に想定した癌の凝固領域を精確に形成できないことが挙げられる.ゆえに,本研究では,術中の癌と癌周辺組織の焼灼中の温度分布状態を観測・予測しつつ,未来の焼灼状態に合わせて,癌焼灼領域の任意の点の温度を制御可能とする手法の構築を行う. 本研究の特徴は,有限要素解析により電極針近傍の温度分布を推定し,出力制御に解析値の値を返却するという,温度制御のフィードバック系の中に有限要素解析を含める制御手法である.本年度は,(a) 温度分布の推定精度を保つことが可能な制御周期の導出,(b) 高速計算が可能な温度分布推定アルゴリズムの開発とブタ摘出肝臓を対象とした提案制御手法の検証を行った.具体的には,30秒以内の制御周期であれば,温度分布の推定精度を保つことが可能であることを数値解析により導出した.この結果をもとに,約30秒の制御周期で高速計算が可能な温度分布推定アルゴリズムを構築し,有限要素解析を用いた温度制御アルゴリズムを構築した.ブタ摘出肝臓の焼灼実験では,電極針から10[mm]離れた地点の温度を誤差数度以内に制御可能であることを確認した.本年度の研究遂行により,提案手法の実現可能性を検証できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画として,RFA施行中の温度場推定手法の構築と精度検証,および温度分布シミュレーション高速化を目的とした高速演算アルゴリズムの構築を立案した.この当初の研究計画と比較して,本年度はおおむね順調に研究を遂行できた.本研究で提案している熱制御の制御則の流れは次の通りである.まず焼灼時の電極針近傍での肝臓組織の温度上昇の時間履歴から,その時刻における熱伝導率の値を推定する.次に実際の焼灼時の温度分布と極めて高精度で一致する温度分布シミュレーションへ推定した熱伝導率の値を反映し,電極針近傍の温度分布を推定する.最後に任意の点の目標到達温度と温度分布シミュレーションによる解析温度との差分をとり,偏差が小さくなるよう電磁波の出力電圧を制御する.上述の流れで有限要素解析を出力制御のフィードバック系に含みつつ,リアルタイムに任意の点の温度制御を実現していく.提案手法の実現に最も重要な点として,出力制御の1ステップにおける刻み時間の設定がある.提案手法における1ステップあたりに要する時間は,熱伝導率推定にかかる時間,温度分布シミュレーションにおける温度分布解析時間,シミュレータ計算された目標出力を実際に出力までの時間の総和である.シミュレータの計算時間の観点では1ステップあたりの時間が長いことが望ましいが,制御の安定性の観点では1ステップあたりの時間は短いことが望ましい.ゆえに,1ステップあたりに制御周期をどの程度必要とされるかを導出し,検証実験を実施した.その結果,温度場の推定精度と計算時間のトレードオフ問題を解決できたため,本年度の研究計画はおおむね順調に達成したと評価する.
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今後の研究の推進方策 |
本年度では,焼灼時の出力電圧のゲイン制御を行うことで,電極針先端から10[mm]離れた地点での温度を制御できた.しかし,制御性能の観点から時間に対する温度上昇を評価した場合,10[mm]より近傍の地点ではオーバーシュートが発生し,10[mm]より遠方の地点では温度分布シミュレーションの解析値との偏差が大きく現れた.ゆえに今後は,より多点において,温度分布シミュレーションの解析値との偏差が小さくなる制御方法の構築が必要であると考えられる.上記課題を克服することで,焼灼時に焼きムラがより小さくなり,均一に生体組織を焼灼することが可能になると予想される. 次年度ではまず,制御工学の観点から,焼灼時に電極針近傍の多点での熱制御応答の評価を行っていく.それは本年度では焼灼時の実測実験に基づく本提案手法の評価が主であったため,理論解析に基づく提案手法の評価が不十分であると考えられ,次年度では熱制御応答特性に取り組む.また,現在は約30秒の制御周期で制御を行っているが,リアルタイム性をより向上させるため,本提案制御手法の制御1ステップにおける計算時間の短縮も並行して行っていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究費使用計画では,制御アルゴリズムのプログラムコーディングを外注する予定であったが,研究を進めていくにあたり,外注はせず研究協力者らで実施すべきと判断したため,使用計画から差額が発生した.また,当初の研究費使用計画では動物実験を行うための研究旅費も確保していたが,本年度はブタ摘出肝臓を用いたin vitro実験での検証を重点的に実施したため,研究旅費が発生しなかった. 次年度の研究費の使用方法として,RFA焼灼時の電圧出力ゲイン制御の制御性能向上のため,実験機の改良に研究費を計上する.また,温度分布シミュレーションにおける解析の計算速度の向上や解析温度の評価を厳密に行うため,専用のソフトウェアの購入などで研究費を計上する.また学会発表や動物実験などに必要な出張旅費を計上する.
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