大橋力らは、可聴域以上の高周波成分(ハイパーソニック以下HS)を含む音環境が、ストレス関連指標に肯定的な効果(コルチゾールの低下、脳波α波の増大等)を見出してきた。本研究では、HSが精神健康に与える効果を実証し、治療応用に向けた基礎的データを得ることを目的とし、以下の2つの研究を行った。 研究1(長期的なHS提示効果)では、HSの治療応用を検討する上で必要と考えられた長期的効果をみるために行った。健常者6名に対し、HSの長期提示(1か月間に16日×3時間の提示)した期間と、提示前後の2週間における心理状態や自律神経機能を評価した。HS提示時期は前後の時期に比べ、 HRVのHF(副交感神経活動の指標)が増大する変化を認める者が多かったが、全員ではなくHS提供をより長く簡便に行う方法の必要性が示された。 研究2(PTSDなどのストレス障害の患者における実施可能性・有効性の検証):トラウマの心理療法では、トラウマに関連する感情にあえて触れつつ、これに圧倒されず整理を行うことが必要であるが、HSがそのサポートをする可能性を検証した。方法は、患者にHSを30分提示し、その中間の10分でストレス状況を話す課題を施行した。HS提示前後に質問紙(感情状態のVAS、POMS)を施行するとともに、提示中は継続的にHRV測定を行った。その結果、心理テストではHS提示前後で陰性感情の低下を認めた。またHRVのHF%(副交感神経活動の指標)は、事前を100%とすると最初の10分(課題なし)で上昇し(平均161.4%)、課題時に下降し(平均74.9%)、その後の10分(課題なし)で再上昇(平均143.2%)していた。交感神経の指標LF/HFはそれと逆の動きをした。以上から、HS提示は、ストレス関連障害の心理療法における精神的な負担を和らげ、これを支援する効果が期待できることが示唆された。
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