脳血管障害の後遺症からのリハビリテーション訓練による機能回復の機構を明らかにすることを目的として、ラットの一側前肢の運動を司る反対側大脳半球一次運動野に光血栓法を用いて脳梗塞を作製し、その一側前肢に麻痺を生じさせた。その後、麻痺した前肢を使って餌を取るというリーチ動作訓練を6週間行った訓練群は、麻痺肢を餌に伸ばし、握り、口に運ぶという巧緻性の高いリーチ動作を行うことが出来るようになった(訓練群のリーチ動作成功率は梗塞を作製しなかった健常コントロール群の約90%;リーチ動作訓練を行わなかった非訓練群では30%程度)。さらに、この訓練群の脳機能変化を解析したところ、麻痺肢と同側の大脳半球一次運動野を脳内微小電気刺激すると麻痺肢が動くようになり、さらに同側の大脳半球一次運動野においてマルチユニット記録すると麻痺肢のリーチ動作に関連して活動電位を発生する運動野ニューロンが多く観察された。これらの結果は、一側前肢の運動を司る反対側大脳半球一次運動野に脳梗塞が生じると、運動訓練をすることによって、本来その前肢の運動を司っていなかった同側の一次運動野が代償的に機能するようになることを示している。そこで、機能回復を示した訓練群の同側一次運動野に順行性トレーサーであるBDAを注入し、軸索走行を観察したところ、同側一次運動野から起始する皮質脊髄路ニューロンの軸索は、延髄錐体で一度交叉し反対側脊髄を下行した後、上位頸髄レベルで再度交叉して同側の脊髄へ投射することが有意に多く観察された。以上の結果は、脳梗塞後にリハビリテーション訓練を実施すれば、梗塞側の反対側大脳半球(麻痺肢と同側大脳半球)運動野の残存ニューロンが可塑的変化を起こし、同側の脊髄運動ニューロンに連絡することによって、同側前肢の運動機能を代償し、リーチ動作のような巧緻性の高い運動機能を回復させる可能性を示唆している。
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