研究課題/領域番号 |
25560262
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松川 寛二 広島大学, 医歯薬保健学研究院(保), 教授 (90165788)
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研究分担者 |
遠藤 加菜 広島大学, 医歯薬保健学研究院(保), 助教 (60584696)
梁 楠 広島大学, 医歯薬保健学研究院(保), 助教 (70512515)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 運動イメージの可視化 / 筋血流量 / バイオフィードバック / 運動機能 / 心循環反応 / 脳活動 |
研究概要 |
運動失調者が身体空間や動作に関する運動イメージを前もって獲得すると一時的に運動失調が消失するという臨床所見が報告されているが、運動遂行を伴わない脳内現象である運動イメージにおいては、イメージ出力を定量化できないという問題がある。本研究は、筋血流量反応を指標とした運動イメージ出力および関連する大脳皮質脳活動の可視化を目的とした。平成25年度の研究実績の概要を以下に記載する。 ① 運動イメージ出力の新しい定量的評価: 健常者に上肢または下肢エルゴメータ回転運動を実施させた後、これらの運動に対する精神イメージを想起させた。近赤外分光法 (near infrared spectroscopy, NIRS) を用いて上腕伸筋群または大腿伸筋群の局所酸素化ヘモグロビン濃度(Oxy-Hb)および脱酸素化ヘモグロビン濃度(Deoxy-Hb)を記録した。心拍数や動脈血圧など循環動態も同時計測した。筋収縮を伴わない場合、Oxy-Hbは筋組織血流量に比例することが分かり、この新しい評価システムを用いて運動イメージ出力の定量化を試みた。 ② 運動イメージ出力と筋組織血流量: 先行するエルゴメータ運動に対する精神イメージを1分間想起させた。イメージ直後に主観的な鮮明度と時間経過を尋ねた。これらの主観的な評価と対応する筋組織Oxy-Hb増加を観察した。一方、心拍数や動脈血圧の変化は主観的評価と有意な相関を示さなかった。この所見は運動イメージと関連する信号が交感神経系を介して筋血流量を増やすことを示す。 ③ 運動イメージに伴う大脳皮質脳活動応答: 運動イメージと関連する大脳皮質活動の応答を調べるため、全頭型NIRSを用いて、大脳皮質全体にわたりOxy-HbおよびDeoxy-Hb変化を記録した。筋血流量反応を基準として運動イメージに対する大脳皮質活動応答を探索したところ、前頭前野皮質の脳活動の増加を観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
比較的無拘束な状態で筋血流量や大脳皮質活動を計測する方法として、近赤外分光法 (near infrared spectroscopy, NIRS) がある。NIRSを用いて、平成25年度に、(1)筋血流量変化から運動イメージ出力を定量的に同定できること、そして(2) 運動イメージと関連する大脳皮質前頭前野の脳活動の存在を明かにした。当初の主要な研究目的を達成できたので、進捗状況はおおむね順調であると考えている。 しかしながら、運動イメージが及ぼす身体運動効果に関する研究課題が残されている。すなわち運動イメージの有無がその直後に実施した運動動作のパフォーマンスや循環機能応答に及ぼす影響を客観的に検証することが達成できていない。また運動イメージと関連する大脳皮質活動の全体像の解析も遅れている。これらの課題を平成26年度に継続して取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
① まず平成26年度に継続して取り組む研究課題を率先して推進したい。運動イメージが及ぼす身体運動効果の評価、ならびに筋組織血流量変化を指標として運動イメージと関連する大脳皮質活動の全体像の解析を行いたい。 ② 次に、被験者に筋血流量の信号を視覚的にBiofeedbackすることで、運動イメージの鮮明化を図りたい。この運動イメージのBiofeedbackが、運動パフォーマンスや循環機能応答を一層向上させるか否かについて明らかにしたい。 ③ 運動イメージBiofeedbackの臨床応用: リハビリテーション臨床現場においても、NIRSを用いて、筋血流量や大脳皮質活動を連続的に計測し運動イメージを定量化・可視化できるか否かを明かにしたい。高齢者や脳卒中・Parkinson病・脊髄小脳路変性症などを有する運動失調者に対して、健常者と同様な運動イメージ研究計画あるいは病態に即して調整した研究計画を実施する。更に、筋血流量反応や大脳皮質脳活動を患者に視覚的にBiofeedbackすることで、精神イメージの明瞭化を図りそれが運動機能の改善に繋がるか否かを明らかにしたい。以上のような基礎的な研究成果は、運動イメージを使ったより効果的なリハビリテーション診療に貢献できると思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度当初に計画していた運動イメージが及ぼす身体運動効果と運動イメージと関連する大脳皮質活動の解析に関する研究課題の進捗が一部遅れている。そのため、これら課題の実施に伴う被験者謝金費や消耗品費に関して未使用額が生じた。 平成25年度の未使用額を用いて、進捗が遅れている上記の研究課題をまず率先して実施推進したい。
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