研究課題/領域番号 |
25560269
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研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
吉田 敬 愛知淑徳大学, 健康医療科学部, 准教授 (90387837)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 失語 / 認知症 / 言語 / 音韻認知 / モダリティ間の融合 |
研究実績の概要 |
当初の研究実施計画を実行することはできなかった。これは、昨年度の予備調査の段階で、当初の計画に基づいた課題を失語症者に実施したところ、一定の傾向を見出すことができなかったことによる。そこで、当初の目的意識を継承しつつ、新たな計画を立てた。一つは聴覚処理障害(APD)と認知機能との関連についての検討、もう一つは健常者および失語症者を対象とした音韻認知における口形提示の有用性についての検討である。前者の検討事項においては、APDの症状がある症例ではSPECTにおいてアルツハイマーに似た血流低下のパターンを認めた。また、高齢者を対象とし加齢性難聴の影響について調査した結果、4000Hz、40dB以上の聴力低下があるとAPDの質問紙においてスコアが高かったことから、特定の周波数の聴力低下によりAPDのスクリーニングに影響を及ぼすことが示された。さらに、スクリーニングでは認知機能が正常であっても、もの忘れとAPDの症状があると、SPECTにおいて脳血流の低下があることが確認された。また、後者の検討事項においては、音声知覚における視覚情報(口形)の有用性について、昨年健常高齢者を対象として実験を行ったが、今回非流暢性失語症者を対象とし、同じ課題を用いて口形提示の有用性について検討した。課題は子音+母音のペアを用いた語音異同弁別課題で、音声のみ条件と音声+口形条件の2条件を設けている。失語症者全体においては、構音点の中では両唇音、構音様式の中では破裂音、有声・無声では無声音で、それぞれ音韻弁別が有意に促進された。但し、個々の失語症者を対象に検討すると口形提示の有効性がほとんど見られなかった者もいた。音声+口形課題では聴覚情報と視覚情報の融合が必要となるが、今回有効性が見られなかった者は失語症状が重度であり、認知機能の低下を伴っていることも考えられ、両情報を統合して処理することが比較的困難であった可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
失語症者を対象とした申請当初の実験課題を遂行することはできなかった。しかし、昨年度新たに計画したMCIを対象とした実験、および失語症者を対象とした新たな実験を予定通り行うことができ、それぞれ一定の成果が得られたことから、今回は、研究がおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
APDの症状とブローカ野の血流低下の関連性について、さらにはこれらと認知機能の関連性について調査していく。またSpeechと聴覚処理との関連性について検討する。さらに、顔面部の運動といった視覚情報からの音韻認識の可能性についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
参照すべき文献が既に他の資金により購入済であったため、新たに購入する必要がなくなった。また、分析に要する機器を購入する代わりに分析ソフトを用いることで当面の間は代用が可能であったため、当初の想定額を下回った。旅費については、学会開催地への移動に要する交通費が当初の想定額を下回ったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
26年度残額分については、研究結果の分析のために新たにパソコンが必要となっていることから、残額分に近い額のパソコンの購入を予定している。また、27年度分においては、学会参加に関わる旅費や関連書籍の購入費にあてる予定である。
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