糖尿病では糖化最終生成物(advanced glycation end products; AGEs)の蓄積と、AGEsとAGEs受容体(RAGE)の相互作用が組織障害を来すことが報告されている。しかし糖尿病の合併症のひとつである腱障害・腱損傷の病態は未だ十分に解明されていない。運動療法は糖尿病治療の重要な柱であるが、運動が糖尿病患者の腱に及ぼす影響についても詳細は不明である。これらを解明するため、Ⅱ型糖尿病を自然発症するSDT fatty ラットを用いて組織学的、分子生物学的検索を行った。SDT fattyラットをケージ飼育し、24週時に棘上筋標本を採取し、免疫組織学的検索を行った。また、8週齢SDT fattyラットに16週間運動負荷を加えた後に棘上筋腱を採取し、リアルタイムRT-PCRを行った。運動はトレッドミルを用いて1日1回、分速5mで連日1時間行い、標本採取時に採血を行い血中インスリン、HbA1c、尿素窒素、クレアチニン、ケトン体、中性脂肪、総コレステロール、遊離脂肪酸を測定した。同週齢のSDラットを対照群とした。 免疫染色の結果、SDT Fattyラット腱組織ではAGEsのひとつであるペントシジンの発現が増強し、AGEs受容体(RAGE)陽性細胞数もSDラットと比較し有意に増加(p=0.007)していた。PCRでは、運動負荷を加えたSDT fattyラットではRAGE遺伝子の発現がケージ飼育群の約43%に低下していた。採血では運動負荷群間では血中ケトン体、中性脂肪、遊離脂肪酸値がケージ飼育群と比較し有意に低下していた。これらより、AGEsの沈着とRAGE発現の増加が糖尿病に合併する腱障害の病態のひとつであり、好気性代謝が亢進する程度の運動負荷を加えるとRAGEの発現が抑制されることから、運動療法は腱障害の予防にも有効である事が示唆された。
|